ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.8.2


. 春と修羅・初版本

01萓の穗は赤くならび
02雲はカシユガル産の苹果の果肉よりもつめたい
03鳥は一ぺんに飛びあがつて
04ラツグの音譜をばら撒きだ

赤く色づいた「萓[かや]の穗」は、「第四梯形」と同じです。

「カシユガル」は、西域(タクラマカン砂漠)の西の端、天山南路と西域南道が出会う中国最西端のオアシス都市です:画像ファイル:カシュガル

ここまで来ると、世界の屋根・パミール高原は、もうすぐそこです。
それで賢治は、氷雪に埋もれた冷たい場所を想像して、こう書いたのだと思いますが…

じっさいのカシュガルは、パミールに近いといっても、砂漠のオアシス都市です。7月の平均気温は25.6℃で、日中は30度を越します。
冬は寒くて、1月の平均気温が零下5.1℃ですが、天山北路などよりは温暖です。

日本人の西域旅行など考えられなかった当時ですから、高原のような冷涼な場所を想像していたのでしょう。
「カシュガル産の苹果[リンゴ]の果肉」は、爽やかで冷たい印象です。「カシュガル産」と言うと、厳しい冷たさではなく、快く爽やかな感じになるからふしぎです。

そういう、ひんやりとした「雲」なのです。

せっかくなので、カシュガルでリンゴの写真がないかどうか、ネットを探してみましたら…
いや、ありました。バザールと、家庭の団欒で、リンゴが写ってる写真があったので、↑画像ファイルに貼っておきました。

さて、4行目の「ラツグ」(ラッグ)は、《ラグタイム》です。

《ラグタイム》は、ジャズの前身となった軽音楽で、アメリカでは19-20世紀の変わり目から1910年代までが全盛期でした。

とにかく、まずは一曲聴いてみてくださいな:画像ファイル:メイプル・リーフ・ラグ

ラグタイムなんて知らないって人も、↑これはどっかで聞いたことがあるでしょ?w

《ラグタイム》は、シンコペーションを多用した軽快なピアノ曲で、《ラグタイム》のリズムに合わせて踊るステップとして生まれたのが、フォックストロットです。

それまでの西洋音楽の常識を破った黒人(クレオール)の音楽ですが、楽譜どおりに弾きます。つまり、アド・リブはしないので、まだ本格的なジャズではない…とか云われたりします。。。

けど‥ほんとは、どうなんでしょうね?‥↑ファイルのユーチューブを4つとも聞いてもらったら判ると思うんですけど……譜面どおり正確に弾いてるのが“いい演奏”ではないですよね?

やっぱりソウルがありますよ。クラシックと違います。。。 そういえば、3番目のノートに、こう書いてあります:

how to play ragtime: "... first learn it how the composer intended for it to be played, then do it the way you want to ..."
〔ラグタイムをどーやって演奏するかって?‥作曲者が、どう演奏してもらいたいと思ってたのか、まず学習することだな。それから、それを、おまえさんの好きなやりかたで、やるんだ‥〕

この↑“メープル・リーフ・ラグ”は、“ラグタイム王”スコット・ジョプリン(1868-1917)が1899年に作曲して最初の成功をおさめたラグタイム曲で、彼を一躍有名にしました。

それから1918年ころまでが、アメリカでのラグタイムの全盛期で、クラシック・ピアニストのルービンシュタインまでが、ラグライムの作曲を試みたりしています。
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