ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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  【82】 火薬と紙幣



8.8.1


. 春と修羅・初版本
「火薬と紙幣」の日付については、問題があります。

《初版本》で、1923年9月30日付の「第四梯形」の次に置かれているのに、“1923.9.10.”の日付になっているからです。《初版本》では、ここ以外は、すべての作品が日付の順に並んでいるのです。そこで、全集では“10.10.”の誤植と見て訂正しています。

たしかに、10月10日に直せば、その次の「過去情炎」は10月15日付ですから、つじつまが合います。

しかし、ほかの考え方もあるように思います。“9.30.”の誤植と考えてはどうでしょうか?
誤植自体の可能性としては、“10.10.”→“9.10.”も、“9.30.”→“9.10.”も同等だと思います。

10月10日(水曜)より、9月30日(日曜)のほうが、どこかへ出かけてスケッチした日としては考えやすいかもしれません。
9月30日は、「第四梯形」と同じ日なので、「第四梯形」は、朝、雫石へ出かける途中、「火薬と紙幣」は、雫石の周辺でのスケッチと考えることができます。

じっさい、「第四梯形」と「火薬と紙幣」は、さまざまなモチーフが共通していて、同日付だとするとよく分かる面があります。

しかし、「第四梯形」は、読んでみた感じでは、どちらかというと朝よりも夕方のようでした‥
また、「火薬と紙幣」には:

. 春と修羅・初版本

20酸性土壤ももう十月になつたのだ

とありますから、9月の日付ではおかしいかもしれません。
もっとも、9月30日は、もうほとんど「十月」だと、言って言えないことはないでしょう。。。w

結局、どちらも一長一短あるので、9月30日と10月10日、両方の可能性を念頭におきたいと思います。

つぎに、スケッチの場所ですが、9月30日とすればやはり雫石周辺です。

10月10日とすれば、平日で、昼過ぎまでは農学校にいるはずですから、花巻周辺、しかも農学校(移転先)近くの湯口村近辺がもっとも考えやすいでしょう。

. 春と修羅・初版本
5-6行目に「古枕木を灼いてこさえた/黒い保線小屋」、13行目に「遠いギリヤークの電線」とありますが、これらは、雫石なら橋場線沿い、湯口村なら東北本線沿いに有ったでしょうし、32行目の「水のそば」は、雫石なら雫石川、葛根田川、黒沢川があり、湯口村なら豊沢川があります。
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