ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.7.12


. 春と修羅・初版本

46いまきらめきだすその眞鍮の畑の一片から
47明暗交錯のむかふにひそむものは
48まさしく第七梯形の
49雲に浮んだその最後のものだ
50緑青を吐く松のむさくるしさと
51ちぢれて悼む 雲の羊毛
52    (三角(さんかく)やまはひかりにかすれ)

地図を見ますと:⇒地図:《七ツ森》踏査図、橋場線の線路は、《七ツ森》の北側のへりに沿って走ってきたあと、“生森”の回りを巻くように大きく左に回りこんで平野部に出ます。このへん、車窓からは“生森”が正面に巨きくそびえて見えます:画像ファイル4枚目、5枚目

早朝だとすると、生森の暗いシルエットに、東にある太陽の「琥珀」色の光が後ろから射して光芒を投げているはずです。
夕方ならば、生森は正面から夕日を受けて、頂上付近の「むさくるし」い松林まではっきりと見えるでしょう。

どうも‥詩に描かれた風景は、どちらかというと夕方のようです。

夕日を反射して真鍮色に光る畑と暗い畑とがモザイクになった「明暗交錯」の風景の彼方に、靄に浮かんだ丘のてっぺんが見えます。この「眞鍮」も、あえて余計な叙情を排した即物的な描写です。

「緑青を吐く松のむさくるしさ」は、↓つぎの短歌群を想起させます:

「あはれきみがまなざしのはて
 むくつけき
 松の林と土耳古玉の天と」
(歌稿B #710b711)

「うるはしく
 うらめるきみがまなざしの
 はてにたゞずむ緑青の森」
(歌稿B #710d711)

「むくつけきその緑青の林より
 まなこをあげてきみは去りけり」
(歌稿B #710e711)
.
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