ゆらぐ蜉蝣文字
□第8章 風景とオルゴール
139ページ/219ページ
8.7.12
. 春と修羅・初版本
46いまきらめきだすその眞鍮の畑の一片から
47明暗交錯のむかふにひそむものは
48まさしく第七梯形の
49雲に浮んだその最後のものだ
50緑青を吐く松のむさくるしさと
51ちぢれて悼む 雲の羊毛
52 (三角(さんかく)やまはひかりにかすれ)
地図を見ますと:⇒地図:《七ツ森》踏査図、橋場線の線路は、《七ツ森》の北側のへりに沿って走ってきたあと、“生森”の回りを巻くように大きく左に回りこんで平野部に出ます。このへん、車窓からは“生森”が正面に巨きくそびえて見えます:画像ファイル4枚目、5枚目
早朝だとすると、生森の暗いシルエットに、東にある太陽の「琥珀」色の光が後ろから射して光芒を投げているはずです。
夕方ならば、生森は正面から夕日を受けて、頂上付近の「むさくるし」い松林まではっきりと見えるでしょう。
どうも‥詩に描かれた風景は、どちらかというと夕方のようです。
夕日を反射して真鍮色に光る畑と暗い畑とがモザイクになった「明暗交錯」の風景の彼方に、靄に浮かんだ丘のてっぺんが見えます。この「眞鍮」も、あえて余計な叙情を排した即物的な描写です。
「緑青を吐く松のむさくるしさ」は、↓つぎの短歌群を想起させます:
「あはれきみがまなざしのはて
むくつけき
松の林と土耳古玉の天と」(歌稿B #710b711)
「うるはしく
うらめるきみがまなざしの
はてにたゞずむ緑青の森」(歌稿B #710d711)
「むくつけきその緑青の林より
まなこをあげてきみは去りけり」(歌稿B #710e711)
.