ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.5.8


‥そうやって、消去法で探してましたところ、
当時は著名だった物理学者として、ノルウェイの物理学者クリスチャン・ビルケランド(Kristian Olaf Bernhard Birkeland, 1867 - 1917.6.15.)という名前が目につきました。

ビルケランドは、空中窒素固定法(ビルケランド・アイデ法)の発明、北極域の地磁気観測、オーロラ研究、電磁砲(コイルガン)の特許などの業績がありますが、

オーロラ研究の分野では、1899年から1900年にノルウェイの高緯度地域探検隊を組織し、そこで得た地磁気の観測結果から、

 “オーロラは、宇宙からの荷電粒子の流れが、地球磁場と作用し、大気に衝突して発光する現象である”

と主張しました。
そして、オーロラによって高空に発生する数百万〜数千万アンペアの巨大電流(オーロラジェット電流)の存在を予測しましたが、これはのちに観測によって確認されています。

さらに、ビルケランドは、地球を模した球形の電磁石に、陰極線(電子の流れ)を当てて光芒を生じさせる真空放電装置(テレラ Terrella)を作成して、オーロラの発生を再現しています。





こうして、オーロラを、“宇宙から流れ込んできた高速の荷電粒子”によって説明するビルケランドの理論は、今日の定説となったわけです。

1913年には、宇宙空間は高速の電子やイオンで満ちているという予測を発表していますが、
その後、太陽からの荷電粒子(プラズマ)の流れ(太陽風)の存在が発見され、ビルケランドの予測は、基本的には正しかったことが認められています。

ビルケランドの“テレラ”によるオーロラ再現実験は、「B氏のやつたあの虹の交錯や顫ひ」という賢治の表現に、非常に近いのではないでしょうか:画像ファイル:オーロラ 画像ファイル:ビルケランド、テレラ

しかし、↑これだけでは、宮沢賢治が、なぜ、ビルケランドに関心を持って、「そらそら、B氏のやったあの‥」などと言っているのか、いまいち納得できないかもしれません。

ビルケランドと宮沢賢治の接点は、どこにあるのでしょうか?

ひとつ考えられるのは、ビルケランドが、《空中窒素固定法》の発明者だという点です。

ヨーロッパでは、19世紀に、リービッヒが、植物に必要な3大養分は、窒素・燐酸・カリであり、どれひとつ欠けても作物は育たない(リービッヒの最小率)──ことを発見して以来、食糧を増産するためには、なによりも安価な肥料の製造が必要であることが認識されていました。

しかし、3大養分のうち窒素だけは、空気中の窒素を、化合物の形に合成する方法がなかったために、化学肥料として製造することができなかったのです。
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