ゆらぐ蜉蝣文字


第8章 風景とオルゴール
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8.5.7


しかし、それと同時に、「B氏のやつたあの虹の交錯や顫ひ」が、全天をおおうと言うのです。

「B氏」とは誰でしょう?‥「虹の交錯や顫ひ」とは、どんな現象なのか?





ギトンの結論を先に言いますと、この「B氏のやつたあの虹の交錯や顫ひ」とは、オーロラです。あるいは、“人工オーロラ実験”です。

もちろん、日本の空にオーロラは見えませんが、《心象》世界だから、それでよいのです。‥あるいは、人間の眼には見えなくとも、可視光線外の周波数では、日本の空でも、一種のオーロラ現象(磁気嵐)が起こっているのです。そのことは、あとで解説します。

さて、そこで、「B氏」を解明しなければなりません。。。 しばらく、賢治の詩のテキストから離れますが、どうか、ご辛抱を……

. 春と修羅・初版本

32そらそら、B氏のやつたあの虹の交錯や顫ひと
33苹果の未熟なハロウとが
34あやしく天を覆ひだす

宮沢賢治は、作品中で、「Aさん」「Bさん」という言い方をした例はないと思います。そうすると、「B氏」というのは、アルファベット人名の頭文字だと思うのです。

しかし、Bで始まる日本人名は稀ですし、賢治の関係者には、ちょっと見当たりません。

したがって、いちばんありうるのは、外国の著名人ではないでしょうか?
しかも、「そらそら、」と、まるで、読者にはすぐ分かるだろうと言わんばかりの言い方をしています。よほど有名な人なのか?‥あるいは、賢治の時代には有名だったのか?‥

しかし、どういう方面の人なのか?

「やった」という言い方は、発見した、作曲した、作詩した、描いた、‥などとは違う言い方です。奇術師か、演奏家、実験科学者のような人が考えられます。

そこで、賢治作品に出てくる人名で、作曲家のベートーヴェン(Beethoven)、バッハ(Bach)などは除かれます。「ブラウン氏運動」のブラウン(Brown)も、「あの虹の交錯や顫ひ」とは関係ないでしょう。「ベッサーンタラ大王」は、Vessantara ですから違います。

指揮者のカール・ベーム(Karl Boehm)は、1917年デビューですが、日本でレコードが発売されたのは1930年代だそうですから、『春と修羅』には間に合わないと思います。

「虹」に関係する分光学、物理学の方面で探してみると…
ボーア(Bohr)、ブンゼン(Bunsen)、“ブラウン管”の発明者カール・フェルディナント・ブラウン(Karl Ferdinand Braun)…などが思いつきます。

しかし、ボーア、ブンゼンは、「あの虹の交錯や顫ひ」を、“説明した”“発見した”ならばともかく、「やつた」という表現が、いまいちピンときません。

ブラウンですが、ブラウン自身が製作したのは、今日で言うオシロスコープでして、「虹の交錯や顫ひ」というイメージには遠いようです。それに、賢治のころには、まだテレビジョンのような高度なブラウン管(CRT)はありませんでした。
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