ゆらぐ蜉蝣文字
□第7章 オホーツク挽歌
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7.1.88
「こしかけてやって来た高等学校の先生
青森へ着いたら
苹果をたべると云ふんですか。
海が藍■に光ってゐる
いまごろまっ赤な苹果はありません。
爽やかな苹果青のその苹果なら
それはもうきっとできてるでせう。」
■=青の旧字+定
「藍■(らんてん)」は「藍澱(らんでん)」と同じで、漢和辞典には、「藍を醗酵させて造った染料」とあります。
“藍”(インディゴ)は、もと中国や日本では、タデ科の植物“あい”の葉から造っていました。葉を水に漬けて醗酵させ、石灰乳を加えて色素分を沈澱させたものが、「藍■」または「藍澱」で、乾かして粉にしたものを染料とします:画像ファイル・アイ
なお、インドで藍を採るのに使われたインドアイはマメ科で、東アジアのアイとは別の植物です。
インディゴは、現在では化学合成品が大部分で、ジーンズの着色などに使われています:画像ファイル・インディゴ
「苹果青」は、“りんごせい”と読ませるのでしょうか?
第5章の「栗鼠と色鉛筆」にありましたが、色名の“アップル・グリーン”だと思います。“アップル・グリーン”は、青リンゴの果皮のような、やや青みがかった薄い緑:画像ファイル:アップル・グリーン
この8月初めという季節は、青森県では、まだリンゴの収穫期には早いそうです。また、早生種には青い(緑色)リンゴがあるそうです。
宮澤賢治は果樹園芸に詳しかったですから、そうした品種の知識に基いて書いているのでしょう。
しかし、ここで言っているのは、それだけでなく、「まっ赤な苹果」と「爽やかな苹果青」に込められた象徴的意味だと思います。青リンゴのほうが、未成熟、純潔、清新なイメージがあります。それは、海の藍色にも通じていますし、作品「オホーツク挽歌」で、海と晴れた空の色について:
65それらの二つの青いいろは
66どちらもとし子のもつていた特性だ
と書いているように、作者が求めてやまないある価値★を表しているのだと思います。
★(注) この場合、亡きトシは、死亡によってイメージが固定したために、象徴の本体として選ばれたのであって(トシが生きていた時の賢治の作品には、トシと青い色を肯定的に結びつけたものは、おそらく無い!)、いわば、賢治の価値の“依り代”になっていると思うのです。
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