ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
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7.1.53


賢治は、この曲のレコードを持っていたと言われています。戯曲『ポランの広場』でも、ダンスの伴奏として“l'estudiantina”のレコードをかけるト書きになっていました(ただし、推敲で削除されています)

たしかに、元気よく踊るための曲としては良いのですが…「青森挽歌」の・このパッセージには、はたして合うのかどうか…

前nの画像ファイルに付けたリンクで『エストゥディアンティナ』を聞いてもらうと分かるんですが、“…風に聴きながら、さびしい林の中を飛んで行く”というイメージには、全然そぐわないんじゃないでしょうか?‥カスタネットやら、マンドリンやら…粋で楽しげなワルツですからね。

賢治の当時の手回し“蓄音機”で再生すると、さびしいワルツに聞こえるんでしょうかねえ‥

もしかすると‥もしかするとですが、‥
作曲者名ワルトトイフェルをドイツ語で“読み解く”と、“森の悪魔”となります。「水のながれる暗いはやしのなか」に繋がるかもしれません‥。賢治は、そういう語呂合わせを楽しんでるのでは‥??‥これは、いくらなんでも珍説でしょうかねw

ちなみに、賢治の引用が“l'estudiantina”になっていて(戯曲『ポランの広場』の下書きでも同じ)、定冠詞が付いてるのが、ちょっと妙なんですね‥。
もちろん、付けて間違いではないんです…フランス語でもスペイン語でも、固有名詞には定冠詞を付けるのが原則ですから。

賢治の持っていたレコードには、定冠詞付きで書いてあるんでしょうか。これは、今後の調査の手がかりになるかもしれませんね‥

. 春と修羅・初版本

140そしてそのままさびしい林のなかの
141いつぴきの鳥になつただらうか
142l'estudiantina を風にききながら
143水のながれる暗いはやしのなかを
144かなしくうたつて飛んで行つたらうか
145やがてはそこに小さなプロペラのやうに
146音をたてヽ飛んできたあたらしいともだちと
147無心のとりのうたをうたひながら
148たよりなくさまよつて行つたらうか
149   わたくしはどうしてもさう思はない

140-141行で、トシが鳥に転生したという想像が述べられ、142行以下で、その内容が詳しく展開されます。

「水のながれる暗いはやし」は、『小岩井農場』にもあったモチーフです:

「小さな沢と青い木立だち
 沢では水が暗くそして鈍つてゐる
 また鉄ゼルの fluorescence」
(パート3)

「たれも見てゐないその地質時代の林の底を
 水は濁つてどんどんながれた」
(パート4)


 

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