ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
200ページ/250ページ



7.7.19


ほんのしばらく前まで、“アルケミー”は、まったく非科学的な迷信としか思われていませんでした。
しかし、ごく最近、再評価の動きがあるようです。というのは、素粒子レベルの物質の構造が、次々と明らかにされてゆくにつれ、いったい物質の究極の姿を、どう理解したらよいのか──単なる数式を超えたイメージの部分が、解らなくなりつつあるのです。

人間はコンピューターではありませんから、数字と数式だけで何でも理解できるわけではありません。素粒子物理学で、“ひも理論”、あるいは“弦の理論”という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これまでの物理学の歴史では、“原子”“素粒子”“クォーク”などと言うと、いつも、球形の硬い粒子をイメージして探究が進められてきたと思います。しかし、その方向は、もはや限界に来ているようなのです。
そこで、究極の単位を、点や小さな粒子ではなく、長さのある紐のようなものとしてイメージしてみたら‥、という方向が、“ひも(ゲージ)理論”なのだそうです。

あるいは、“多次元宇宙”“多世界宇宙”なども、新しいモデルの試みとしてあります。たとえば、三次元を超える次元(8次元など)は、素粒子以下の微小な単位の中に埋め込まれている、という理論があるそうです。

ともかく、そんな現在の科学の先端では、これまでに考え付かなかった発想が求められているのです。
“アルケミー”のリバイバルも、そうした文脈の中にあります。

さらに、もうひとつ、最近“アルケミー”に関心が寄せられるようになった理由は、“錬金術師”ニュートンの魔術研究文書が公表されたという大事件です。

あの近代科学の父アイザック・ニュートンは、微積分と近代物理学を樹立する一方で、実は、同じくらいのエネルギーを、錬金術・魔術の研究に注いでいました。

しかし、ニュートンの時代のイギリスでは、錬金術は禁止され、厳しい処罰が科されていましたから☆、ニュートンは、錬金術関係の著作をすべて秘密にしていました。
ニュートンの死後200年以上たった1936年、ニュートンの遺した膨大な文書がオークションに出て、その大部分が魔術の著作らしいということで、これはセンセーションを巻き起こしました。文書の多くは、あの経済学者ケインズの手に落ちたのですが、さらに転々として、最終的にはイスラエル国立図書館に寄贈され、最近、同図書館は、オンラインでの公表を始めたのです。

ただ、おそらく全体は膨大な分量の手書きメモで、整理解読は容易でないので、現在までに公表されているのは、ごく一部と見られています。

☆(注) これは、卑金属を金に変える方法が発見されると、金価格が暴落して英国の経済力が損なわれることを、英国政府が恐れたためだと言われています。

そういうわけで、“アルケミー”の歴史や内容ということになると、最近ようやく再発掘が始まったばかりで‥、しかも、マニアックな‘研究’が多いですから、信用できる資料も概説書も見当たらないのが現状です。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ