ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
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7.7.12


. 春と修羅・初版本

31列車の窓の稜のひととこが
32プリズムになつて日光を反射し
33草地に投げられたスペクトル

列車の窓の稜(かど)の一箇所が、「プリズムになつて日光を反射し」、スペクトル(七色の虹の縞)を草地に投げています。

↑疑問はあるのですが、詩の流れが現実的になっていることから考えると、これは実景だと思うのです。

昔の客車の窓の歪んだガラスのせいなのか、霧の出ているところに強い陽射しが当たったせいなのか‥、分かりませんが、じっさいに虹が見えるのは、窓ガラスの少し外だと思います。

. 春と修羅・初版本

34(雲はさつきからゆつくり流れてゐる)
35日さへまもなくかくされる
36かくされる前には感應により
37かくされた后には威神力により
38まばゆい白金環ができるのだ
39  (ナ[モ]サダルマプフンダリカサスートラ)

作者の視線は、空へ向かいます。

しかし、今度は、ゆったりと観照する心持ちで眺めています。当然に、描かれた空の現象は現実的なものと読むべきです。

「白金環」は、同名の科学用語に適当なものが無いのですが、上の描写にもっとも適合するのは、“光環”という大気現象です:画像ファイル:光環 画像ファイル:光環

“光環”は、雨上がりの時など、太陽の周りに円く虹ができる現象です。
同じ太陽の周りの円環でも、日暈(かさ、ハロー)のように大きな円ではなく、七色の虹を伴う点が異なります。
↑画像ファイルで、比べて見てください。

ギトンの経験では、太陽の“光環”は、(関東地方では)平地では見えにくく、高山に昇るとよく見えます。月の“光環”は、雲のある夜にはどこでも見えます。

『気候学・気象学辞典』の記事から引用しておきますと↓

光 環 薄い雲をとおして太陽または月を見るとき,それらの周辺視半径2〜3゚に色づいたリングが現れることがある.よく発達したものは内側から青─緑─黄─赤の順に配色され,さらにその外側に別の色づいた一連のリングがみられることもある.〔…〕

 光環は水雲による光の回折によっておこり,視半径も小さいことから,氷晶雲による暈(かさ)現象(ハロー)とははっきり区別される.〔…〕

 雲が光源周辺をおおいつくしていない場合には,雲のある部分のみが色づく.これを彩雲という.」

上の詩句で言うと、

36かくされる前には感應により

は、雲のある側だけが色づく「彩雲」現象。

37かくされた后には威神力により

は、円い虹のリングができたあとの「光環」です。

注意しておきたいのは、さきほど、31-33行は、地上での虹現象、34行目以下は、大空の「光環」現象が述べられたわけですが、これらの光学的原理(微小水滴による光の回折)は、まったく同じだということです。
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