ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
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7.6.8


. 春と修羅・初版本

022おほきなはまばらの花だ
023まつ赤な朝のはまなすの花です

宮沢賢治が、ここであえて「はまばら」という読みを出しているのは、ひとつには、啄木のこの和歌を想起させるためでしょう。
また、「ばら」という語によって、「おほきな‥‥まっ赤な」ハマナスの花の豪華さを強調しているのだと思います:画像ファイル:ハマナス

上の啄木の短歌は、故郷の函館の海岸に咲くハマナスを思って望郷の気持ちを詠んでいる──ということですが、ギトンには、単なる望郷の念とは思えません。潮の匂い、「薔薇」という字のイメージ、ハマナスの花のイメージ、どれをとっても性体験、あるいは性感覚を刺激する体験を連想させます。

何か、そうした体験を回想しているように思えるのです。
ギトンは、啄木の和歌については、ほとんど何も知らないので、これが可能な解釈なのかどうかさえ分かりません。

しかし、おそらく(ここでこの歌を想起していることから)宮沢賢治もまた、啄木の歌から、同じ印象を抱いたと思うのです。

じっさい、ハマナスの花の形や花弁の色は、‘人妻’のような熟れた女を、あるいはもっと一般的に、淫らな性を思わせます☆。

☆(注) そのために、ギトンは、どうしてもこの花が好きになれません(笑)

そうした花の印象は、

024 ああこれらのするどい花のにほひは
025 もうどうしても 妖精のしわざだ

以下につながって行きます。

そこで、21行目に戻って:

021朝顔よりはむしろ牡丹(ピオネア)のやうにみえる
    〔…〕
023まつ赤な朝のはまなすの花です

「牡丹(ピオネア)」について考察したいと思います。

「ピオネア」は、ボタン属の学名 Paeonia でしょう。ラテン語の読みは‘パエオニア’ですが、英語読みにすれば‘ピオニア’です。

しかし、ボタンの花は豪華な八重(やえ)がふつうで、アサガオともハマナスとも似ていないのです:画像ファイル:ボタン、シャクヤク

ピオネア属全体を見渡してみると、芍薬(シャクヤク)は、ボタンよりは清楚な花をつけます。ただし、色は白です。

ボタン、シャクヤクは、中国原産で、日本には栽培種として渡って来たものですが、
日本の自生種で、ヤマシャクヤクというのもあります。

さらに、ヤマシャクヤクの近種のベニバナヤマシャクヤクも、日本の野山に生える自生種です。しかし、これは、近年はめったに見られなくなりました。全国にわずか数箇所しか自生していないと言われ、どこかでベニバナヤマシャクヤクが咲いているのを見つけた、というニュースがネットを駆けめぐるほどです:⇒ベニバナヤマシャクヤク動画(奈良県、観音峰)

ベニバナヤマシャクヤクならば、ハマナスに似ていると言ってよいでしょう。

ところで、最近、なんと、小岩井農場の森陰にベニバナヤマシャクヤクが咲いていたというニュースがあります。もちろん植えたものではなく自生です: ⇒ベニバナヤマシャクヤク(小岩井農場)
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