ゆらぐ蜉蝣文字


第7章 オホーツク挽歌
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7.3.2


. 駒ヶ岳

「弱々しく白いそらにのびあがり
 その無遠慮な火山礫の盛りあがり
 黒く削られたのは熔けたものの古いもの
  (喬木帯灌木帯、苔蘚帯といふやうなことは
   まるっきり偶然のことなんだ。三千六百五十尺)」

古い写真の景観を見ると、「喬木帯灌木帯、苔蘚帯といふやうなことは/まるっきり偶然のことなんだ」と言っている意味が分かります。「喬木」は高木、「苔蘚」はコケ。

麓から標高にしたがって、植物相がきれいに層を成しているのは、おだやかな本州の土地の場合であって、ここのように火山活動の影響があると、教科書のような遷移にはなりません。ナチュラル・ヒストリー(博物学)の理論どおりにはならない地球のダイナミックな力を目の当たりにした思いなのです。

「黒く削られた〔…〕熔けたものの古いもの」は、剣ヶ峰の頂きを指しているのだと思います。たしかに、古い熔岩(火道内のマグマ?)が風化してデコボコの裸岩の頂きを造っています。

「火山礫の盛りあがり」は、火山礫や軽石が積もってできた丸い尾根や頂きと思われますが、熔岩の尖頂に比べて白っぽく見えます。

空は薄曇って「弱々しく白い」のと対照的に、荒々しく「無遠慮な」尖頂や「盛りあがり」が、高く突き上げています。
まさに、植生の層序など吹き飛ばしてしまうような大地のエネルギーです。

「三千六百五十尺」と言っていますが、これは不正確です。
最高峰の剣ヶ峰なら標高1131mで、約3732.3尺。一等三角点のある砂原岳(さわらだけ)でも標高1112mで、約3669.6尺。せめて「三千六百七十尺」と言うべきでした。

「いまその赭い岩巓に
 一抹の傘雲がかかる。
    (In the good summer time, In the good summer time;)」

「巓」は、漢和辞典によると、頂き、山の頂上。

「赭」は、“あかい”と読ませていますが、この漢字を“そほ”と読んで、火口の近くでよく見られる赤土、あるいは、その暗い赤茶色(ココアに似た色)を指します。おそらく、主成分はベンガラ(酸化鉄(V)Fe2O3):画像ファイル:赭色
作者がここでイメージしている色も、赤ではなくて“赭色”のほうです。

駒ヶ岳は、眺める位置や光のかげんによって、ずいぶんいろいろに見えます。山頂付近や火口原には、赤っぽく見える部分もあります。

「傘雲」は、ふつう笠雲と書きますが、山の頂上にかかったレンズ状の雲です。いろいろな形のものがありますが、笠雲ができやすいのは、富士山などの独立峰です:画像ファイル:笠雲

駒ヶ岳も、まわりに高い山が少ないので、笠雲がかかりやすいようで、↓これは大沼畔からですが、「一抹の傘雲」とは、こんな形のものでしょうか‥



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