ゆらぐ蜉蝣文字


第6章 無声慟哭
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6.1.5


室内から窓を通して見た5-6行目では:

05うすあかくいつそう陰惨な雲から
06みぞれはびちよびちよふつてくる

となっていましたが、
戸外に出てからの14-15行目では、同じ情景が:

14蒼鉛いろの暗い雲から
15みぞれはびちよびちよ沈んでくる

と描かれます。

「蒼鉛いろ」は、青黒い鉛色と思ってよいようです☆

☆(注) 「蒼鉛」はビスマス(Bi)のことで、銀白色の金属です:画像ファイル:蒼鉛 しかし、ここでは、輝く金属のイメージではなく、漢字の字面による“蒼い鉛”のイメージと考えざるをえません。

暗い室内から見た時には、「うすあかく」奇怪に明るく見えた空は、いまは、ひたすら青黒く暗い雲空であり、

室内では、単に「ふってくる」とされたみぞれも、戸外で下から見上げている目には、空から「沈んでくる」と感じられます。

それにしても、「びちょびちょ」という擬態語は、水っぽいみぞれの感じを表していると同時に、この詩全体にユーモアを添えているように思われます。
暗くなりがちな、あるいは高踏的に、非現実的になりがちな内容を語りながら、こうした作者のユーモアが、読者を、親しみ深い日常世界に繋ぎ止め、どこかほっとさせてくれるのです。

@11行目の「まがつたてつぽうだまのやうに」は、A22行目「まつすぐにすすんでいくから」の伏線だったことが分かります。
妹の「あめゆじゅとてちてけんじゃ」に促されて、慌てて飛び出してきた「まがった」「わたくし」も、“これからは「まつすぐにすすんでいく」”と誓うわけです。

しかし、それにしても解らないのは、「わたくし」は、なぜ、「まつすぐにすすんでいく」という決意に至ったのでしょうか?

妹の依頼は、「わたくしをいつしやうあかるくするため」だったと感じるのは、なぜなのでしょうか?

そう感じるのは、じっさいに椀に採取した雪を見て、「こんなさつぱりした雪のひとわん」であることを知ったからではないでしょうか?
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