ゆらぐ蜉蝣文字
□第6章 無声慟哭
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6.1.3
この詩は、おおよそ次のように、4つの部分に分けてみることができると思います。
@ 1-13行目 導入部 状況概説、雨雪採取場所への出発
A 14-27行目 主題提示部 現場に到着、雨雪採取の動機
B 28-48行目 展開部 雨雪採取の状況
C 49-56行目 終結部 祈り
@導入部では、「わたくし」は、トシの病室から、戸外(宮澤家本宅の庭)のようすを窺っています。
ここで、戸外の状況、天候などが大雑把に提示され、導入の役割を果たします。
作品の描く対象は、妹のために庭から雨雪を採って来る作者の行動で、この作品は、庭へ出て行って雨雪を採取した時点までが描かれます。そして、次の「松の針」で、採って来た雨雪を病床の妹に触れさせるところが描かれます。
. 春と修羅・初版本
01けふのうちに
02とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
03みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
04 (あめゆじゆとてちてけんじや)※
05うすあかくいつそう陰惨(いんざん)な雲から
06みぞれはびちよびちよふつてくる
07 (あめゆじゆとてちてけんじや)
※あめゆきとつてきてください
08青い蓴菜(じゆんさい)のもやうのついた
09これらふたつのかけた陶椀に
10おまへがたべるあめゆきをとらうとして
11わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
12このくらいみぞれのなかに飛びだした
13 (あめゆじゆとてちてけんじや)
↑「あめゆじゅとてちてけんじゃ」のリフレインが印象的ですが、これについては、のちほど3でも詳しく検討します。
1行目から7行目までは、「わたくし」は屋内──おそらくはトシの寝ている病室にいます。
「おもてはへんにあかるいのだ」
「うすあかくいつそう陰惨な雲」
「みぞれはびちよびちよふつてくる」
これらは、暗い室内から、やや明るい戸外(宮澤家の庭)を見た印象だと思います☆
☆(注) 1行目からすでに庭に立っていると読む人もいます:杉浦静『宮沢賢治 明滅する春と修羅』,1993,青丘書林,p.80.
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