ゆらぐ蜉蝣文字


第5章 東岩手火山
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【53】 滝澤野





5.2.1


ひとつ前の「銅線」と、この「滝澤野」は、9月17日(日曜)付。生徒たちを引率して、岩手山へ向かう途中です。「銅線」は、花巻からの汽車旅の風景。「滝澤野」は、滝沢駅で下車して、徒歩で岩手山へ向かう途中のスケッチ。「滝澤野」とは、柳沢の手前あたりのことでしょう:画像ファイル:一本木野
時間は午後から夕方。

. 春と修羅・初版本

  瀧 澤 野

01光波測定の誤差から
02から松のしんは徒長し
03柏の木の烏瓜ランタン
04(ひるの鳥は曠野に啼き
05 あざみは青い棘に遷(うつ)る)

「滝澤野」も、16行の短い詩ですが、いろいろと語句の問題をふくんでいて難しいです。

のっけから、「光波測定」という何やらわけのわからない科学用語(?!)‥

そして、その測定の誤差で、カラマツの芯が徒長するとは‥????!!

まさに判じ物です‥。
科学用語を探しても、適当なものが見つからないので☆、内容で解釈するほかはなさそうです。

☆(注) いま、「光波測定の誤差」でネット検索すると、測量用の光波測距儀(レーザー光などを遠方の障碍物に反射させて、戻って来た光波の位相差によって距離を測る器械)に関する記事ばかりヒットします。しかし、この装置は1960-70年代に実用化されたもので、賢治の時代にはありませんでしたから、無関係です。

「から松のしん」も、カラマツの木のどの部分なのか分かりませんが、“心材”(幹の中心)ではないでしょう。

針葉のことだとすれば、「しんは徒長し」は、長い針葉が茂っている状態でしょう。。。

しかし、“鉛筆の芯”という言葉のアナロジーで考えると、
カラマツの樹木全体(あるいは、ひと振りの枝)を鉛筆に見立てれば、「しんは徒長し」とは、梢や枝が高く伸びすぎた景観でしょう。上向きにまっすぐ伸びるカラマツの樹形に合っているので、この解を採用します:画像ファイル・カラマツ

ともかく、青い「しん」が伸びきって、空を刺している、ちくちく刺す痛みをともなった景観が、この詩句の与える印象です。

そこで、「光波測定の誤差」ですが──

植物は光を求めて生長しますが、光波を正確に測定して生長すれば均整のとれた形になるが、測定に誤差があると伸び過ぎたりして変な形になる、というサイエンス・フィクションを想定してみますw:

「誤差」とは、“誤測定”とは違います。どんなに正確に測定しても、理論値と完全に一致はしない‥その理論値(真の値)と測定値の差のことです。

“光を測定する”という場合、光の速度を測る、波長/周波数を測る、強さを測る、位相を測る‥などの場合があると思いますが、

ここでギトンの考えを言いますと、賢治の時代に、もっとも有名な「光波」の測定実験は、光速度の測定だったと思います。

光波度の測定は、↓次のようにして行ないます(これは測定方法の一例です):

測定地から非常に遠い場所に鏡を置いて、測定地から光を送り、反射して戻ってきた光を、もとの光と重ねます。

こうすると、鏡までの距離を往復するのにかかった時間だけ、反射光の位相は、もとの光の位相からずれているはずです。

この位相差を測定して計算すれば光速度が求まります。
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