ゆらぐ蜉蝣文字


第5章 東岩手火山
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5.3.30


それはともかく、こうして怪しい幻想風景は払拭され、生徒たちの声も聞こえてくると、けぶるように輝く天の川の景色に心が洗われるようです。

さきほど、二重になって針のように鋭く光っていた月も:

187月はいま二つに見える
187月にはするどく針の光
 【新聞発表形】

いまはひとつになり、

. 春と修羅・初版本

199月のその銀の角のはじが
200潰れてすこし圓くなる

月が鋭い光を失って、円くなったように見えるのは、まわりが明るくなって、輪郭がぼやけてきたためでしょうか。

201天の海とオーパルの雲
202あたたかい空氣は
203ふつと撚(より)になつて飛ばされて來る
204きつと屈折率も低く
205濃い蔗糖溶液に
206また水を加へたやうなのだらう

「オーパル」はオパール(蛋白石)のこと。

「撚(より)」は、ねじった紐、糸、紙など。
辞書を見ると:

よ・る【×縒る/×撚る】[動ラ五]
2 ねじる。ねじるように曲げる。また、ねじって螺旋(らせん)状にする。「こよりを撚・る」

より【×縒り/×撚り】
よること。また、よったもの。「糸に撚りをかける」「撚りが戻る」「撚りが甘い」「撚り糸」

柔らかい虹色の雲海から、温かい空気が濃淡の筋になってやって来るように感じられます
砂糖水に強い光を当てながら、水か湯を加えると、溶液の濃淡によって屈折率が違うので、境目が縞模様になって見えます。

肌に感じられる暖かい空気の流れは、「ふっと」撚りになって飛んでくるようです。

207東は淀み
208提灯はもとの火口の上に立つ
209また口笛を吹いてゐる
210わたくしは戻る
211わたくしの影を見たのか提灯も戻る

「東は淀み」──もう東の空では夜明けが始まっています。

《御室》火口へ行っていた3人の生徒は、《一升目》石標のところへ戻って来ています。《一升目》石標の地点は、外輪山が低くなって、火口原とほぼ同じ高さになっているのです。「もとの火口の上」とは、そこです:画像ファイル:岩手山

そこで、《下向の道》標石まで行っていた「わたくし」は、《一升目》へ行かずに、《不動平小屋》(九合の小屋)へ戻って行きます。それを見て、《一升目》の生徒たちも、小屋へ向かいます☆
↑画像ファイルの・地図と「御鉢めぐり」画像で、位置関係を確認してください。

☆(注) この賢治と4人の生徒の行動を見ると、小屋にはまだ他の生徒が残っているようです。





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