ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
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【48】 山巡査




4.16.1


「山巡査」は、「グランド電柱」と同じ1922年9月7日(木曜日)付です。
‥ばかりでなく、「竹と楢」までの5篇はみな同じ日付です。つまり、すべて雨の日のスケッチなのです。
そして、場所はみな、花巻の近郊と思われます。


 
春と修羅・初版本
01おお
02何といふ立派な楢だ
03緑の勲爵士(ナイト)だ
04雨にぬれてまつすぐに立つ緑の勲爵士(ナイト)だ

05栗の木ばやしの青いくらがりに
06しぶきや雨にびしやびしや洗はれてゐる
07その長いものは一體舟か
08それともそりか
09あんまりロシヤふうだよ

10沼に生えるものはやなぎやサラド
11きれいな蘆(よし)のサラドだ

ナイト(knight)は、「イギリス(連合王国)の叙勲制度において、叙勲者に与えられる、中世の騎士階級に由来した称号」「主に文化・学術・芸能・スポーツ面で著しい功績があった者に対し、女王が授与する」「叙勲者は年に2度、新年と女王の誕生日に発表され」(Wiki)るそうです。
叙勲した有名人には、007シリーズのショーン・コネリー、ストーンズのミック・ジャガー、元ビートルズのポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、推理作家のコナン・ドイル、(ここからは楽屋落ちw→)指揮者のマリナー、ラトル、ガーディナー、デイヴィス、ピアニストの内田光子。
ナイトの訳語は幾つかあって、「勲爵士」も、そのひとつ。

しかし、ここではむしろ、甲冑を身にまとった中世の騎士のほうをイメージしているのではないでしょうか。

賢治が「山巡査」「ナイト」と呼んでいるのは、森の中にある楢(なら)の大木──と、素直に読んでおいてよいと思います。
この楢は、ミズナラだと思います。関東・関西なら平地に生えているのはコナラですが、岩手県の山沿いですからミズナラがほとんどだと思うのです。

ミズナラは、ブナやケヤキのようなスラッとした美形の樹木ではなく、太くてごつごつとした、また堂々とした巨木に生長します。
樹幹も縦に深い裂け目があり、樹皮はぼろぼろで光沢があります:画像ファイル:ミズナラ

ギトンは思うのですが、ブナが森の貴公子・王侯の風格を備えているのに対して、
ミズナラは森の王者、影の実力者、不破の武将ではないかと思います。

しかし、賢治のイメージでは「緑のナイト」、あるいは地元の深い信頼を寄せられた「山の巡査」なのですね。

ここでちょっと寄り道ですがw。。。 宮澤賢治は、巡査、あるいは巡査という職業に対して、どんなイメージを持っていたでしょうか?

軍人、軍隊に対しては、悪いイメージ‥マイナスのイメージを持っていたと思います。それについては、弟の清六氏の証言があります。
また、弁護士に対しては非常に悪いイメージを持っており、判事(裁判官)に対しても、イメージはよくなかったと思います。『第2集』あたりの作品から、そう思われます。
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