ゆらぐ蜉蝣文字
□第4章 グランド電柱
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4.14.24
. 春と修羅・初版本
42赤ひたたれを地にひるがへし
ここで、剣舞の動画を、また見ていただきます:相去鬼剣舞 一人加護 北上市《鬼の館》にて(7:51)
“一人加護”は、踊り手一人の演目。↑原体ではなく、高校生が演じています。
残念ながら画面が鮮明でないのですが、「蜘蛛おどり」ステップは、これがいちばん見やすいと思いました。
この足の運び方は、“へんぱい”という修験道の格式で、
大地を踏みしめて、地下の悪霊を鎮める呪術的意味があるのだそうです。
とくに、6:55 以後が激しいステップになりますから、最後まで見てください。
「赤ひたたれ」について:
「直垂(ひたたれ)」は、上衣と袴を合わせて一式の衣装で、上衣の裾は袴の下(内側)へ入れます:画像ファイル・直垂
@ そうすると、↑上のビデオで言えば、踊り手が着ている黒い衣装上下のことになります。
「地にひるがへ」るのは、直垂の袴のすそ、ということになります。
当時の原体剣舞では、子供たちは赤い直垂を着ていたのでしょうか?
それにしても、現在の原体「保存会」の衣装ですと、すそはモンペのように脚にフィットしていて、ひるがえりません。。。:画像ファイル・原体剣舞
A ↑上のビデオを見ていると、、お尻に垂れている2枚の布──座衣(?)の裾のほうが、ひらひらして目立ちます。色も‥まぁ赤を含んでいます。
これは、原体の踊り手も付けています。
B また、ビデオで、踊り手の肩から両脇に垂れている赤い布は、地面まで届きませんが、文句なしに、ひらひらと「ひるがへ」っています。
「地にひるがへ」るのは、中腰になったときだけです。
この“一人加護”のように、腰を沈めて激しい動きをすると、たしかに「地にひるがへ」す感じかもしれません‥
↑はたして、賢治の言う「赤ひたたれ」は、この3つのうち、どれなのか、ギトンにはいまのところ判断がつきかねます‥
37 dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
42赤ひたたれを地にひるがへし
43雹雲(ひやううん)と風とをまつれ
44 dah-dah-dah-dahh
「雹(ひょう)」とは、積乱雲から降る氷の粒のうち、直径5mm以上のものをヒョウ、直径5mm未満のものは霰(あられ)と呼ぶそうです。
つまり、「雹雲」は、大粒のヒョウを降らせるかみなり雲ですが、Wiki によると:
「雹は激しい上昇気流を持つ積乱雲内で生成する。そのため雷とともに起こることが多い。」
と言いますから、激しい落雷をともなう巨大に発達した積乱雲です。
巨大な雷雲からの疾風が、剣舞手たちの衣装を激しくひるがえします。
45夜風(よかぜ)とどろきひのきはみだれ
46月は射そそぐ銀の矢並
47打つも果てるも火花のいのち
48太刀の軋(きし)りの消えぬひま
49 dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah
「ひのき」の枝葉をゆさぶる夜風に、踊り手たちの‘蓬髪’──黒羽の飾りも、激しく乱れます。
天を刺す髪を模した羽飾りは、いよいよ乱舞し、月光が、射かけてくる敵の矢のように注ぎます。太刀がぶつかり合う鋭い音と迸る火花は、戦いによって失われた・おびただしい数の生命を象徴します。
「銀の矢並(やなみ)」は、月光を、戦いで降りそそぐ矢にたとえているのですが、
月の光を、たくさんの針が飛ぶ姿として描いている例は、第6章の「風林」にもあります↓:
31よこに鉛の針になつてながれるものは月光のにぶ
47-48行目は、むかしの戦いで果てた怨霊たちの・火花のようにはかない短い一生を言っているようですが、
打ち合わせた刀の響きが消えない間に、火花のように燃え上がれ‥と、促しているようでもあります。
それは、考えてみれば、短い一生を力いっぱいに駆け抜けた作者自身のことを言っているかのようです。
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