ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
50ページ/88ページ


4.13.4


3行目以下に進みたいと思います:

. 春と修羅・初版本

03いつぽんすぎは天然誘接(よびつぎ)ではありません
04槻(つき)と杉とがいつしよに生えていつしよに育ち
05たうたう幹がくつついて
06險しい天光に立つといふだけです
07鳥も棲んではゐますけれど

この「いつぽんすぎ」ですが、佐藤勝治氏によると、じっさいに当時、万丁目・新田・湯口村方面にあったそうです☆

☆(注) 『“冬のスケッチ”研究』,増訂版,pp.41-42,44, 折込み「作者彷徨図解説」7番,「作者彷徨想像図」第13地点“四本杉”参照。

現在、2万5000分の1地形図を見ますと、JR花巻駅から西へ向かい東北自動車道を越えたところに“一本杉”という地名があるので、このあたりと思われます。

『冬のスケッチ』では:

「梢ばかりの紺の一本杉が見えたとき
 草にからだを投げつければ
 わづかに見える天の地図」
(22葉,§1)

とあります。同じ紙葉の:

「すばるの下に二本の杉がたちまして
 杉の間に一つの白い塚がありました。」
(22葉,§5)

も、このあたりの杉林と思われます。





前作「電車」の場所との関係で言いますと、《花巻電車軌道》で松倉山・志戸平温泉方面へ出かけたあと、帰り道に湯口村方面を散策したことが考えられます。
なお、8月17日で、学校は夏期休暇中です。

「よびつぎ」は、ふつうは“呼び接ぎ”と書きます。

園芸の接木(つぎき)の方法の一つで、

切った枝を台木につなぐのではなく、
2本の苗を近づけて植え、幹の途中に切れ込みを入れて・くっつけて縛っておき、癒合したら、片方の根側と、もう一方の枝側をそれぞれ切り離して、1本の木にします:画像ファイル:呼び接ぎ

枝を根元に回して、癒着させて切り離せば、1本の木で呼び接ぎをすることもできます。

賢治は「誘接」という字をあてていますが、「誘」の字を使ったのは意図あってのことかもしれません‥‥誘惑の誘ですからねw

しかし、この詩の文脈では、
「天然誘接」ではない、ということが重要なのです。

両方の樹幹が癒着して1つの植物体のように繋がってしまうのではなく、それぞれが独立した樹木でありながら、互いに支えあって生きている──という点を強調しているのです。
.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ