ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
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4.9.2


B そこで、もうひとつ思いついたのは、前の作品「岩手山」との関係です。

作品「岩手山」の・よどんで沈む岩手山の姿は、海底に沈んだ澱りのようには見えないでしょうか?
つまり、“山が海に見えた”のではなく、大空が海で、山も地上も、深海底のように見えた──という場合です:

前の作品では、岩手山も大地も作者自身も、深海の底にいるように思ったけれども‥、

「やつぱり光る山だたぢやい」

‥まぶしく輝く山(岩手山)の姿を見て、われに返った…

そう考えれば、小岩井農場あたりの景観としてもおかしくないと思います。

ともかく、どこか高原へ出かけて書いていることになります。

3行目に「ホウ」という掛け声も入っていて、民謡のおもむきです。

4-5行の

04髪毛 風吹けば
05鹿踊りだぢやい

鹿踊(ししおどり)は、宮城県・岩手県の郷土芸能ですが、《太鼓踊り系》鹿踊りと、《幕踊り系》鹿踊りがあるそうです。

「鹿踊り」としてよく知られているのは《太鼓踊り系》のほうで、踊る人が小さな太鼓を前に抱えて、叩いて唄いながら踊ります。
装束が独特で、頭には本物の鹿のツノをつけて、背中にサラサ(長い割り竹の束)を2束背負い、長い髪のカツラを垂らしています:画像ファイル・鹿踊り(太鼓踊り系)

お囃子(笛などの伴奏)無しで、自分で太鼓を鳴らし、長髪を振り乱して踊りまわる、無骨なくらい素朴な舞いです。
ギトンは、見ていると、身体の芯がオゾオゾしてくるような原始の息吹きを感じてしまいます。

《太鼓踊り系》は、花巻以南に分布しています。

これに対して、《幕踊り系》は、太鼓を持たず、面から垂れた幕を手でもち、ひらひらさせてお囃子にあわせて軽快に踊ります。
ツノは鹿の角でなく、木の板で作ります。ヤマドリの羽を頭につけたりします。“つけ髪”も、紙を切って作ったきれいなものです。
《幕踊り系》は、装束もスマートですね。

ふつうの郷土芸能という感じで‥、ようするに、ひとりで立ってやる獅子舞いです…
《幕踊り系》は、紫波、盛岡、遠野および以北に分布しています:画像ファイル・鹿踊り(幕踊り系)

花巻周辺の鹿踊りは、《太鼓踊り系》が大部分ですから、宮沢賢治がイメージしていたのも、こちらだと思います。

↑↑この詩「高原」も、

「髪毛 風吹けば」

とあって、蓬髪が振り乱れるようすに着目していますから、明らかに《太鼓踊り系》のほうです。

ところで、この詩は、本物の鹿踊りを見て描いたのではないと思います(小岩井だとすれば《幕踊り系》の地域です)。
長髪が風になびいているようすが、鹿踊りのようだと言うのです。
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