ゆらぐ蜉蝣文字


第4章 グランド電柱
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【41】 高 原





4.9.1


「高原」も、6月27日(火曜日)付:

. 春と修羅・初版本

  高 原

01海だべがど、おら、おもたれば
02やつぱり光る山だたぢやい
03ホウ
04髪毛(かみけ) 風吹けば
05鹿(しし)踊りだぢやい

山を海と見まがうのは、どんな場合なのだろう‥、と考えこんでしまいました。

ギトンが考えついたのは、↓次の2つの場合です:画像ファイル・南アルプス、北上山地

@ 遠くの高い山脈の冠雪が光って、雲海の波頭のように見える。

上のように、写真に写すと、山だということが分かってしまいますが、

肉眼でぼんやり見ると、アルプスなど、雪をかぶった高い山脈は、雲と区別しにくいことがあります。
雲というより、高い波の波頭が打ち寄せているように見えることすらあります。

平地よりも、低い山の上から展望したときに、そう見えやすいかもしれません。

岩手県ですと、冬の奥羽山脈は、そのように見えると思います。

A なだらかな起伏の続く高原や丘陵地が、波うつ大海原のように見える。

これは、『第二集』の「地質調査」(#45,1924.4.6.,下書稿(1))で、賢治自身が次のように書いています:詩ファイル「地質調査」

「台地はかすんで優鉢羅[華(うばらけ)]燈油の海のやう
   ……かなしくもまたなつかしく
     旅路の春の胸を噛む
     求宝航者(シンドバード)の海のいろ……
 そこには波がしらの模様に雪ものこれば
 いくつものからまつばやしや谷は
  [一行不明]
   ……それはひとつの海蝕台地
     迦葉仏在世のころの波際である……」

作品#45の場所は、北上山地の種山ヶ原か、その付近の丘陵地と思われます。
隆起準平原のなだらかな地形が広がる景観を述べています。

「優鉢羅(優鉢羅華, Utpalaka)」は、《法華経・序品》に登場する八大竜王のひとつで、霊鷲山で釈迦の説法を聞いて、仏教の護法神となった蛇身の精霊。青蓮華(青いハスの花)を生ずる池に住まう。

「迦葉仏(かしょうぶつ)」は、シャカ以前に出現した仏(サトリに達した人)のうち最後の人で、“人の寿命が二万歳の時に出現した”と言いますから、おそろしく昔です。“迦葉仏在世のころ”は、中生代か古生代か分かりませんが、そのくらい昔を考えているわけです:画像ファイル:優鉢羅、迦葉仏

たくさんの「からまつばやしや谷」をつらねて波うつ大地は、
起伏の稜には「波がしらの模様に」残雪があって、海のように広がり、地平線にかすんで消えています。

. 画像ファイル・南アルプス、北上山地‥←こちらに写真を入れておきましたが、小岩井農場の奥の《春子谷地》のあたりから岩手山・鞍掛山方面を望むと、
北上山地ほど広くはありませんが、ここにも、森と原野がゆるやかに起伏した景観があります。

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