ゆらぐ蜉蝣文字
□第4章 グランド電柱
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4.5.2
童謡「あまの川」の・もうひとつのおもしろさは、リズムにあります。おおざっぱに七五で取りますと:
5 7・5 7・5 7・7・5
という、変形七五調といったらよいのでしょうか。七五調短歌を引き伸ばしたリズムになっています。
もう少し細かくとりますと:
5
3・4・5
3・4・5
4・3・4・3・5
となっていて、
5音を行末におき、3音と4音の配置で全体のリズムのまとまりを作り出していることが判ります。
さて、そういう目で見ると、「青い槍の葉」も、七五調を基本にしたリズムです:
. 春と修羅・初版本
02雲は來るくる南の地平
03そらのエレキを寄せてくる
04鳥はなく啼く青木のほづえ
05くもにやなぎのかくこどり
7・7 (3・4・4・3)
7・5 (3・4・3・2)
7・7 (3・4・4・3)
7・5 (3・4・3・2)
「あまの川」と同様に、5音をフレーズの句切りにして、3音と4音の配置でリズムのまとまりを作っています。
そして、↓括弧書きのリフレインが、型にはまった7・5調を破り、単調に陥るのを防いでいます:
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
3・3・4・3
しかし、「青い槍の葉」は、内容的には「あまの川」などよりもずっと“唄”としてのまとまりを重視していて、
その反面、ほかの《心象スケッチ》のような内容的な深みは、ありません。
ともかくこれは、賢治作品の中では、精神歌や行進曲と同じように、歌詞として見たほうがいいのかもしれません。
01 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
02雲は來るくる南の地平
03そらのエレキを寄せてくる
04鳥はなく啼く青木のほづえ
05くもにやなぎのかくこどり
06 (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
07雲がちぎれて日ざしが降れば
08黄金(キン)の幻燈 草の青
09氣圏日本のひるまの底の
10泥にならべるくさの列
岩手県内陸地方には、“日照りの年は豊作”という諺がある☆そうですが、多少降水量が少なくても、晴天の陽射しが多く注いだほうが、稲の成長がよく、豊作になるそうです。
むしろ、雨の多い年は、冷害を心配しなければならないといいます。
☆(注) この諺を‘根拠’にして、「雨ニモマケズ」の「ヒデリノトキハナミダヲナガシ」の「ヒデリ」は「日照り」ではなく「日取り」(日雇いの労賃)のことで、この行は農業労働者に対する同情をうたっている──などという見解が、近年まことしやかに主張されたことがあります。しかし、私たちは《いんとろ》【2】で見たように:0.2.6、内陸部では大きな被害にならない日照りの年も、三陸海岸部では、海水温上昇による漁業の不漁とともに甚だしい飢饉をもたらしたことを知っています。賢治は、これを経験していたので、「寒さの夏」だけでなく「日照りのとき」にも「涙を流し」たのです。
この唄は、作品日付から言っても、伸び始めの稲の状態から言っても、梅雨時の初め頃の状況なのですが、
私たちの常識にある梅雨の鬱陶しさは、感じられません。
「雲は來るくる〔…〕そらのエレキを寄せてくる」と言いながら、本格的な降水の描写は乏しく、晴天に、通り雨が交錯する“蒸し暑い初夏”を描いています。
04鳥はなく啼く青木のほづえ
「ほづえ」は、古語の「ほつえ」ではないでしょうか?★
「ほつゑ(上枝)」:樹木の上のほうの枝。
★(注) JR高山本線に「上枝(ほずえ)」という駅がありますから、濁って「ほづえ」と読んでもよいのだと思います。
万葉集に、↓↓こういう和歌があるそうです:
青柳の 上枝(ほつゑ)攀(よ)ぢ取り かづらくは
君し宿にし 千年(ちとせ)寿(ほ)くとぞ (万19-4289 大伴家持)
〔青い柳の梢の枝を引き寄せて取り、髪飾りにするのは、わが君の家で千年の長寿を願ってのことです〕
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