ゆらぐ蜉蝣文字


第3章 小岩井農場
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3.10.3


08 うかべる石をわがふめば

は、往路の「パート4」の:

78それらかヾやく氷片の懸吊をふみ

に対応していますが、いま、復路の作者はもはや孤独ではなく、

09 おヽユリア 〔…〕

と呼びかけているのです。

09 〔…〕 しづくはいとど降りまさり
10 カシオペーアはめぐり行く)

「いとど」は、“いよいよ”。

つまり、作者が、「さだめなく」点滅する微光──星空?──の中で、天に浮いた石──「氷片の懸吊」──を踏んでゆくと、ちょうどペダルを踏んで“天の水車”を回すように、夜空全体が、いよいよ速度を増して回転し、「しずく」は、いよいよ激しく降って来ます。

ちょうど、遊園地の回転ドラムに乗ったような“目まい体験”です。

しかし、降りまさる「しづく」は、単なる雨の雫ではないような気がします。

むしろ、書かれなかった「パート8」に登場したであろう・降りしきる“天の子供ら”の魂──「〔みあげた〕断片」で、「雨よりしげく降って来」ていた「小さな小さな光の渦」ではないかと思います:〔みあげた。〕

ところで、ここでなぜ「カシオペーア」が出てくるのでしょうか‥

童話『水仙月の四日』にも:

「カシオピイア、
 もう水仙が咲き出すぞ
 おまへのガラスの水車(み[づ]ぐるま)
 きつきとまはせ。」

という雪童子の唄がありました。

星座のカシオペア座だとすると、いまいち意味不明です。。
北極星を「水車」の軸として、カシオペアがその周りをめぐる天球の日周運動を「水車」と言っている──と思えなくはないのですが。。。

ギトンは、この「カシオピイア」は、サカサクラゲ(Cassiopea属)ではないかと思います:

. 画像ファイル:サカサクラゲ
↑どうです?「ガラスの水車」に見えませんか?w

サカサクラゲは、普通のクラゲとは逆さまに、“脚”(触手)を上にして、イソギンチャクのような形で生活しています。
英語版 Wiki によりますと、暖帯の浅海、たとえばフロリダのマングローブ林や海草原の浅瀬、泥海、水路などに生息しています。

ちなみに、サカサクラゲ属が「カシオペア」という学名を持つ由来ですが、

ギリシャ神話で、エチオピア王妃カシオペア(Cassiopeia)は、自分の美しさを鼻にかけて自慢したので、海神ポセイドンの罰を受けて、星空に逆さ吊りにされたと言います(草下英明『宮澤賢治と星』p.145)

したがって、星座にしろ、逆さクラゲにしろ、“罰を受けて逆さにされている”という共通点があるようです。

ここで、「パート9」の【下書稿】を見ておきたいと思います:

. 「小岩井農場・パート9」【下書稿】

「ユリアが私の右に居る。私は間違ひなくユリアと呼ぶ。
 ペムペルが私の左を行く。透明に見え又白く光って見える。
 ツィーゲルは横へ外れてしまった。
【みんな透明なたましひだ。】
【大きく】[はっきり]眼をみひらいて歩いてゐる。
 あなたがたははだしだ。」

この「ユリア」「ペムペル」「ツィーゲル」の3人は、作者の見ている幻影であり、作者が畑地の斜面の奥に“4本の桜”を見たことから、雨の中を歩いている作者のそばに現れて、並んで歩くようになったのです。

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