ゆらぐ蜉蝣文字
□第3章 小岩井農場
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3.8.10
「ある日自分の塾で」と、予告されているのは、授業を終えたアラムハラドが自室に戻る際の、↓次のような体験と思われます:
. 学者アラムハラドの見た着物
「アラムハラドは〔…〕自分の室に帰る途中ふと又眼をつぶりました。さっきの美しい青い景色が又はっきりと見えました。そしてその中にはねのやうな軽い黄金いろの着物を着た人が四人まっすぐに立ってゐるのを見ました。」
アラムハラドの脳裏には、「美しい青い景色」の中で、「はねのやうな軽い黄金いろの着物を着た人が四人まっすぐに立ってゐる」光景が見えたと言うのです。
「黄金いろの着物を着た人が四人」は、
「小岩井農場」で《聖なる地》の奥に見えた“4本の桜の幽霊”と関係があるのかもしれませんし、ないのかもしれませんw
先の部分の原稿には、この「四人」について、また「不思議な着物」について、もっとハッキリと書いてあったと思うのですが、残念ながら、これ以上は分かりません。
ただ、雨が降り出す直前に、アラムハラドは生徒たちに“ヴィシュヴァンタラ王子”説話を語っているので、「四人」と「不思議な着物」も、それと何か関係があるはずです。
アラムハラドは、説話を次のように語るのです:
国宝の白象も何もかも人にあげてしまうヴィシュヴァンタラは、ついに妻と2人の子(王子)とともに追放されてしまったが、
「大きな林にはいったとき王子たちは林の中の高い樹の実を見てああほしいなあと云はれたのだ。そのとき大王〔=ヴィシュヴァンタラ──ギトン注〕の徳には林の樹も又感じてゐた。樹の枝はみな生物のように垂れてその美しい果物を王子たちに奉った。」
そうすると、「四人」とは、ヴィシュヴァンタラと家族3人でしょうか?
ヴィシュヴァンタラらが、「はねのやうな軽い黄金いろの着物」を着て現れ、何か不思議な霊験を授けるのでしょうか?
‥信心のない者が、へたな想像をしないほうがいいかもしれませんねw
ともかく、『学者アラムハラドの見た着物』は、「小岩井農場」と繋がると言っても、「パート8」よりも、むしろ、他の部分から着想して発展したような気がします。
さて、『雁(かり)の童子』は、非常に有名な童話で、さまざまな解釈が唱えられていますから、短い紙面で扱うわけにもいきません。
しかし、“ミーランの有翼天使壁画”と関係がありそうなのは、童話のもっとも終りの部分です:
. 雁の童子
「そしてお二人〔「須利耶さま」と「雁の童子」──ギトン注〕は町の広場を通り抜けて、だんだん郊外に来られました。沙[すな]がずうっとひろがって居りました。その砂が一ところ深く堀られて、沢山の人がその中に立ってございました。お二人も下りて行かれたのです。そこに古い一つの壁がありました。色はあせてはゐましたが、三人の天の童子たちがかいてございました。須利耶さまは思わずどきっとなりました。何か大きい重いものが、遠くの空からばったりかぶさったやうに思はれましたのです。それでも何気なく申されますには、
(なるほど立派なもんだ。あまりよく出来てなんだか恐いやうだ。この天童はどこかお前に肖[に]てゐるよ。)」
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