ゆらぐ蜉蝣文字


第2章 真空溶媒
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2.2.6


. 春と修羅・初版本

01(えヽ、水ゾルですよ
02 おぼろな寒天(アガア)の液ですよ)
03日は黄金(きん)の薔薇
04赤いちいさな蠕蟲(ぜんちゆう)が
05水とひかりをからだにまとひ
06ひとりでをどりをやつてゐる

「寒天」に振ってあるルビ:「アガア」とは、何でしょうか?‥じつは料理用語なのです:画像ファイル・アガー ゼラチン・アガー・寒天の違い

「アガー」は、西洋風の寒天、無色透明で軟らかい寒天だと思えばよいのではないでしょうか。
カラギーナン(海藻の抽出物)、ローカストビーンガム(マメ科の種子の抽出物)などを混合したものだそうです。現在、コンビニなどで半円形の透明なパッケージに入って売られているフルーツゼリーが、「アガー」らしいです。

そこで、「おぼろな寒天(アガー)の液」とは、雨水がチンダル現象でうっすらと濁っているので、見た目には、「アガー」のようなぷるぷるしたものの質感があるということでしょう。じっさいに粘性があるわけではありません(ほんとうにゼリーのようだったら、ユスリカが泳ぐことができません)

「日は黄金の薔薇」──「黄金の薔薇」は、空にかかっている太陽ではなく、水面の反射か、あるいは水の中から見上げた太陽を想像して描いているのだと思います。

「ひとりで踊りをやつてゐる」は、一匹しかいないという意味ではないでしょう。一匹の動きに注目しているのだと考えます。





07(えヽ、8(エイト) γ(ガムマア) e(イー) 6(スイツクス) α(アルフア)
08 ことにもアラベスクの飾り文字)

「アラベスクの飾り文字」──「アラベスク」については、日本語版ウィキの記述は混乱しているような気がします。それに引き摺られて、デジタル大辞泉なども、おかしくなっています。あまりにも、イスラム側の記述に偏りすぎていて、通常の意味が分かりません。

もともと「アラベスク」は、「唐草文様」とほぼイコールの言葉で、植物や文字をあしらったパターンの繰り返しによる文様を広く総称していると思います。
その歴史は、シュメール、エジプトから始まって、ヨーロッパ、中国、‥そして日本の法隆寺にまで及んでいます。

賢治は「飾り文字」と書いていますが、いま、ネットで「アラベスク 飾り文字」を検索すると、コーランのアラビア文字のカリグラフィーしか出て来ません(インターネットは、イスラム原理主義勢力に乗っ取られたんでしょうかねw)。

しかし、賢治が考えていたのは、↑それではなくて、ローマ字やギリシャ字の飾り文字です。そこで、画像ファイルには、ウィリアム・モリスの装丁本から、ローマ字の飾り文字を出しておきました:画像ファイル・アラベスクの飾り文字
しかし、これでも賢治の頭にあった「飾り文字」には遠いような気がします。

そこで、‥‥へたっぴぃで恥ずかしいのですが、アタゴオルのヒデヨシのマントのような日本風アラベスク(風呂敷の“からくさ”もよう)をもとに、賢治の「アラベスクの飾り文字」を試作してみました:画像ファイル・アラベスク

これを見て思い出すのは、『銀河鉄道の夜』で、ジョバンニが自分でも知らずにポケットに入れて持っていた“唐草模様の切符”です:(次ページへ)


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