ゆらぐ蜉蝣文字


第2章 真空溶媒
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2.2.3


そうすると‥‥ミミズでもない、ボウフラでもない、となると、賢治が観察していたムシは、いったい何だったのでしょうか?

ギトンは、ユスリカの幼虫だと思います。

釣りや熱帯魚の餌で、“赤虫”と呼ばれているのが、ユスリカの幼虫です。

勇気のある方は(笑)、画像を確認してください:画像ファイル・ユスリカ
ユスリカは、ちゃんと、「8、γ、‥α」の形になっているではありませんか(笑)

画像で比べていただければ分かりますが、
イトミミズはあまりにも細長すぎて、「8、γ、‥α」のようにくねろうとすると、自分の身体と絡み合って団子になってしまいます。
他方、ボウフラは太すぎて、「8、γ、‥α」の形にはなれないでしょう。

ユスリカは、細さ長さがちょうどよいので、1〜2回くねった形になりやすいのです。

そしてまた、ユスリカは、“赤虫”と呼ばれるほどはっきりとした赤い色です。これは、体内にヘモグロビンをもっているためなのだそうです☆
画像で見られるように、ユスリカには「とがつた二つの耳」があります。これは“大鰓”という器官のようです。

☆(注) 無脊椎動物でヘモグロビンを持っているものは珍しいのですが、ユスリカ以外にも、マツモムシ、ミジンコ、赤貝などがあります。これらは、脊椎動物のヘモグロビンとは少し構造が違うのですが、やはり赤い色をした呼吸色素です。

そして、ユスリカは昆虫ですから★、ミミズなどより動きが活発で、

. 春と修羅・初版本

06ひとりでをどりをやつてゐる

23くるりくるりと廻つてゐます

という描写に適合しています。
見ている前で、「8、γ、‥α」など、いろいろな文字の形になることも、期待できそうです。

★(注) ユスリカは、蚊ではなく、ハエ目の昆虫です。人間や動物の血を吸う習性はなく、そもそも成虫には口も消化器官もありません(つまりカゲロウと同じです)。生涯の大部分を幼虫として水たまりや池の中で過ごし、蛹を経て羽化して成虫になると、1〜2日しか生きられません(1週間と書いているサイトもありました)。この成虫の期間には激しく交尾する習性があり、《蚊柱》が立ちます。水際などに小さな羽虫が柱のようにたくさん密集して飛び回っているのを見たことがないでしょうか。1匹のメスのまわりに多数のオスが集まって飛び回っているのですが、人間の頭の上に《蚊柱》が立つこともあります。ユスリカは、濁った湖沼など、富栄養の水に多く、田んぼでも多く発生します。大量に羽化すると、住宅の電灯に吸い寄せられて、箒で掃き出すほどたくさん集まって来るので、害虫視されますが、富栄養の濁った水を浄化する働きもしているので、最近では、アオコ除去など、ユスリカの水質改善作用が注目されてきています。

次に、“環節”がある点は、どうでしょうか?

21燐光珊瑚の環節に

とありますから、「蠕虫舞手」の体には、はっきり見て分かるような“環節”があるのです。

“環節”は、ボウフラがいちばんはっきりと見えます。
しかし、ユスリカの“環節”も肉眼でよく見えます。
イトミミズにも“環節”はあるのですが、小さくて、虫眼鏡を使わないと見えにくいです:画像ファイル・ユスリカ





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