ゆらぐ蜉蝣文字
□第1章 春と修羅
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【2】 くらかけの雪
1.2.1
「くらかけの雪」は、「屈折率」と同じ1月6日の日付を持っています。小岩井農場へ向かって歩いている・同じ状況でのスケッチの続きと考えてよいでしょう:
. 春と修羅・初版本
01たよりになるのは
02くらかけつづきの雪ばかり
03野はらもはやしも
04ぽしやぽしやしたり黝(くす)んだりして
05すこしもあてにならないので
06ほんたうにそんな酵母のふうの
07朧ろなふぶきですけれども
08ほのかなのぞみを送るのは
09くらかけ山の雪ばかり
10(ひとつの古風な信仰です)
⇒地図:小岩井農場、鞍掛山
はじめに、宮沢清六氏の鑑賞文☆を参照してみます。清六氏は、
「屈折率」の時点では日が差したりしていた農場の道も、この「くらかけの雪」をメモした時点では雲に覆われて吹雪になり、ホワイトアウトしてしまったと想定しています。
これは、「小岩井農場・パート9」に(⇒:小岩井農場《パート9》3.10.9):
. 春と修羅・初版本
40この冬だつて耕耘部まで用事で來て
41こヽいらの匂のいヽふぶきのなかで
42なにとはなしに聖いこころもちがして
43凍えさうになりながらいつまでもいつまでも
44いつたり來たりしてゐました
とあることによるのです。そして、ホワイト・アウトした野原で方向を見失い、
「もう丘だか雪けむりだか空だかもわからない。」
吹雪がやんだあとも、
「岩手山も見えないし、七つ森も見えないし、どこをどんな風に歩いたかも、方角がどうなつてゐるのかもわからない。」‥
その時、雲の切れ目から、鞍掛山の「真白くきらきらした」尾根続きが見え、
「『くらかけ山だ!』
と雷に打たれたように、彼は躍り上がってしまう。」
五里霧中の中で、「くらかけつづきの雪」の輝きによって、一瞬にして方角を見出した・閃光のような体験から、作者は、大きな啓示を受け取っているのです。
☆(注) 『兄のトランク』,pp.107-113.
↑清六氏の鑑賞文は、「くらかけの雪」、及び「小岩井農場」中に挿まれたこの日の回想のほかに、童話『水仙月の四日』などからの引用も取り混ぜて、「残された詩集と童話の中から、その日の軌跡と見るべき切断面を拾い集め、その截り口を飛び石伝いに」この日の作者の「心象の軌跡」を復元する──という手法で書かれています。
これは、単なる鑑賞というよりも、宮沢賢治の作品をもとにしたコラージュ、ないしノンフィクション小説と言ってよいのではないでしょうか。
しかし、それはそれで、‘厳密’な事実の考証とは別の側面において、その時の作者の真実を描き出していると思います。
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