ゆらぐ蜉蝣文字


第1章 春と修羅
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1.9.4


これは、↓こういうことなんだと思います。

12-14行目の場合には、「れいらうの天の海」という言い方から判るように、
空を飛んで行くちぎれ雲を透かして、もっと上の天のほうを見上げているんだと思います。

つまり、↓↓この図のように、




      天

                 黒い木
   →→ 聖玻璃の風 →→    ▼
                  ▼
  ─────天の海(水面)───  ▼
                  ▼
  ○○○  ○○ ○○○  ○○ ▼
    空を飛ぶ ちぎれ雲  ξ  ▼
               ξ
               ζあけび
               ノ の蔓
        ♂(作者)   (
━━地上━━━━━━━━━━━━━━




ちぎれ雲の上に「天の海」の水面があって、それよりも上は、清浄な天上の世界──というわけです。

「聖玻璃の風」が雲を飛ばしているのではなくて、

ちぎれた雲の間からのぞいている天の景色──地上に住む生き物には、ほんらい見える風景ではないのですけれども──が、いかにも深く澄みわたって、
あの向こうでは──「天の海」の水面の向こうにある天上界では──「聖玻璃の風」が行き交っているにちがいないと、思えるわけです。

これに対して、20-24行目の場合は:

「天の海」の水面から下は、われわれの下界ですから、
空を飛ぶ ちぎれ雲とて、その下界のいちばん高くを飛んでいるわけで‥

下界の「修羅」の嘆きと運命をともにして千切れたり飛んだりしているわけです。

もっとも、25-26行目の括弧書きで、さりげなく書かれているように:

「(玉髄の雲がながれて
  どこで啼くその春の鳥)」

「修羅」の目には、やぶれかぶれの“ちぎれ雲”にしか見えなくとも、
よく見れば美しい「玉髄の雲」なのですし、
. 玉髄

「修羅」の耳にはよく聞こえないようですけれども、
地上のどこかでは「春の鳥」が啼いているのです。

27日輪青くかげろへば
28  修羅は樹林に交響し
29   陥りくらむ天の椀から
30    黒い木の群落が延び
31     その枝はかなしくしげり

こんどは日が翳ってきたので、「修羅」の怨嗟の叫びは、森の中でこだましています。

「天の椀」は、かぶせたお椀の内側のような“空の丸天井”のことです。
その天球面から、逆さまに地上に向かって「黒い木の群落」が伸びて来るのです。

「その枝はかなしくしげり」

さきほど、糸杉(ツィプレッセン)の黒々とした列が出ていましたけれども、天上から伸びてきた「黒い木」も、服喪、死の象徴とされる地上の糸杉とよく似たようすをしています::イトスギ

この「黒い木」は、「修羅」の悲しみに同調するようにも見えますが、

あるいは、「修羅」に罰を下すために天から伸びてくるようにも思われます。。。

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