ゆらぐ蜉蝣文字


第0章 いんとろ
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0.7.6


そこで、@ABのうち、どれを採るかはまだ検討の余地がありますが、
ともかくも、「二十二箇月」とは、《心象スケッチ》の活動を開始した1922年3-4月頃から、「序詩」の書かれた1924年1月までの22ヶ月間を指しているのだ、
という理解は可能と思われるのです☆

☆(注) 賢治は、『春と修羅』出版後も、自用の《初版本》に詳細な推敲・改変を記入して、再版に備えていました。その中で、誤植も大部分が訂正されています。そうやって、賢治の筆跡で推敲・改変の加えられた本が、何冊か現存しているのですが、そのどの本でも、「序詩」の「二十二箇月」は、まったく訂正の跡がないのです。したがって、「二十二箇月」は誤りではなく、著者に意図があってあえてそう書いているのだと、見なければならないのかもしれません。

このように考えると、↓↓この「序詩」の引用部分は、『春と修羅』の各作品の意義を物語ってはいないでしょうか?

「これらは二十二箇月の
 過去とかんずる方角から
 紙と鉱質インクをつらね
 (すべてわたくしと明滅し
 みんなが同時にかんずるもの)
 ここまでたもちつゞけられた
 かげとひかりのひとくさりづつ
 そのとほりの心象スケッチです」

  


作者の各日付の日の体験は、記憶の中で絶え間なく明滅し、一瞬たりとも同一でありつづけることがありません。そして、まもなく消えてしまいます。
それを、言葉に直して、「紙と鉱質インクをつらね」た《スケッチ》とすることによって、いちおうの同一性は保たれますが、それもあくまで“いちおう”のことでして、しばらく経てば、読み方、受け取り方が変わるので、やはり、内容の変遷はまぬかれません。
もちろん、作者自身によって、推敲加除や書き直しが加えられて変遷することもあります。
そうやって、変遷の痕も残しながら、ともかくも「ここまでたもちつゞけられた」「そのとほりの心象スケッチ」なのであると。
そして、そうやって保持されてきた各作品は、主たるテーマである作者の「ふたつのこころ」──「かげ」の鎖と「ひかり」の鎖──、その22ヶ月間各段階における・揺れ合い縺れ合う情況の《スケッチ》なのだと。


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