ゆらぐ蜉蝣文字


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小説・詩



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宮澤賢治・著『心象スケッチ 春と修羅』(大正13年[1924年]4月20日,關根書店)は、宮沢賢治が生前に公刊した唯一の“詩集”です。
発行所となっている関根書店は名前を借りているだけで、実際には著者の自費出版でした:画像ファイル・初版本 春と修羅・初版本:扉

↑いま詩集を“”括弧に入れたのは、著者自身は「自分の作品は詩ではない」と言い、「詩集」と呼ばれることを非常にいやがっていたからです。しかし、「詩」「詩集」という言葉を使わずに語るのは、たいへんに煩わしいので、以下では、著者の意思には反しますが、便宜上、これらの言葉を使うことにします。

内容は、1922年1月6日から1923年12月10日までの日付を持つ69篇の詩と、1924年1月20日付の序詩が収められています。ただし、詩の日付は巻末の目次にのみ記されています。

宮沢賢治は、この詩集のあと、1924年以後の詩作品を、『春と修羅・第二集』『春と修羅・第三集』にまとめ、
出版を計画していました。
とくに『第二集』のほうは、原稿の編集を終えて印刷するばかりになった状態で遺されました。
これらにも収録されなかった詩作品は、著者の死後に、編集者によってまとめられ、『春と修羅・第四集』『春と修羅・第五集』等と呼ばれることがあります。

また、生前公刊された『心象スケッチ 春と修羅』収録の諸篇についても、著者は公刊以後に大幅な推敲・加除を行なっており、改訂再版を予定していたと思われます。
死後の全集等各種書籍への収録の際には、生前公刊本ではなく、著者による推敲・加除後のテキストで収録される場合も、少なくなかったのです。

そこで、上記の生前公刊本については、『春と修羅・初版本』、あるいは『春と修羅・第一集』と呼び慣わしています。
単に『春と修羅』と言う場合には、この第一集を指すのが普通です。

以下では、《初版本》テキストを基本として考察を進めます。
というのは、《初版本》は公刊時期が確定しているので、収録作品の成立時期も、かなり確実に推定できるからです。すなわち、著者の伝記的事実や、同時期に書かれた童話作品などを参照しながら解釈することが可能になります。

《初版本》の各作品は、作品日付の時系列順に並んでいますので☆、収録順に検討を進めることにします。

さらに、《初版本》に収録されなかった同時期の詩作品──いわゆる『春の修羅・第一集補遺』──についても対象とし、それぞれの作品日付にしたがって、《初版本》収録作品の間に入れて検討します。


☆(注) ただし、1箇所だけ、収録順序と日付順の合わない箇所があります(「第四梯形」↔「火薬と紙幣」)。これについては、該当詩篇の検討の中で議論したいと思います。





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