『心象スケッチ 春と修羅』

□グランド電柱
16ページ/17ページ


とんぼのからだの銅線をつかひ出したな
   はんのき、はんのき
   交錯光亂轉
くわうらんてん
氣圏日本では
たうたう電線に銅をつかひ出した
  (光るものは碍子
   過ぎて行くものは赤い萓の穗)


瀧 澤 野


────────


光波
くわうは測定の誤差から
から松のしんは徒長し
柏の木の烏瓜
からすうりランタン
  (ひるの鳥は曠野に啼き
   あざみは青い棘に遷
うつる)
太陽が梢に發射するとき
暗い林の入口にひとりただずむものは
四角な若い樺の木で
GreenDwarf といふ品種
日光のために燃え盡きさうになりながら
燃えきらず青くけむるその木
羽蟲は一疋づつ光り


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ