『心象スケッチ 春と修羅』
□小岩井農場
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(三時四十分
まだ一時にもならないも)
火は雨でかへつて燃える
自由射手フライシユツツは銀のそら
ぼとしぎどもは鳴らす鳴らす
すつかりぬれた 寒い がたがたする
パート九
すきとほつてゆれてゐるのは
さつきの剽悍ひやうかんな四本のさくら
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わたくしはそれを知つてゐるけれども
眼にははつきり見てゐない
たしかにわたくしの感官の外で
つめたい雨がそそいでゐる
(天の微光にさだめなく
うかべる石をわがふめば
おヽユリア しづくはいとど降りまさり
カシオペーアはめぐり行く)
ユリアがわたくしの左を行く
大きな紺いろの瞳をりんと張つて
ユリアがわたくしの左を行く
ペムペルがわたくしの右にゐる