『心象スケッチ 春と修羅』

□小岩井農場
24ページ/28ページ


  (三時四十分
   まだ一時にもならないも)
火は雨でかへつて燃える
自由射手
フライシユツツは銀のそら
ぼとしぎどもは鳴らす鳴らす
すつかりぬれた 寒い がたがたする


パート九


すきとほつてゆれてゐるのは
さつきの剽悍
ひやうかんな四本のさくら


────────


わたくしはそれを知つてゐるけれども
眼にははつきり見てゐない
たしかにわたくしの感官の外で
つめたい雨がそそいでゐる
 (天の微光にさだめなく
  うかべる石をわがふめば
  おヽユリア しづくはいとど降りまさり
  カシオペーアはめぐり行く)
ユリアがわたくしの左を行く
大きな紺いろの瞳をりんと張つて
ユリアがわたくしの左を行く
ペムペルがわたくしの右にゐる


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ