『心象スケッチ 春と修羅』
□小岩井農場
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わかい農夫がやつてくる
かほが赤くて新鮮にふとり
セシルローズ型の圓い肩をかヾめ
燐酸のあき袋をあつめてくる
二つはちやんと肩に着てゐる
(降つてげだごとなさ)
(なあにすぐ霽れらんす)
火をたいてゐる
赤い焔もちらちらみえる
農夫も戻るしわたくしもついて行かう
これらのからまつの小さな芽をあつめ
わたくしの童話をかざりたい
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ひとりのむすめがきれいにわらつて起きあがる
みんなはあかるい雨の中ですうすうねむる
《うな いいおなごだもな》
にはかにそんなに大聲にどなり
まつ赤になつて石臼のやうに笑ふのは
このひとは案外にわかいのだ
すきとほつて火が燃えてるる
青い炭素のけむりも立つ
わたくしもすこしあたりたい
《おらも中あだつでもいがべが》
《いてす さあおあだりやんせ》
《汽車三時すか》