『心象スケッチ 春と修羅』
□小岩井農場
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めいめい遠くのうたのひとくさりづつ
緑金ろくきん寂静じやくじやうのほのほをたもち
これらはあるひは天の鼓手こしゆ、緊那羅きんならのこどもら
(五本の透明なさくらの木は
青々とかげらふをあげる)
わたくしは白い雑嚢をぶらぶらさげて
きままな林務官のやうに
五月のきんいろの外光のなかで
口笛をふき歩調をふんでわるいだらうか
たのしい太陽系の春だ
みんなはしつたりうたつたり
はねあがつたりするがいい
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(コロナは八十三萬二百……)
あの四月の實習のはじめの日
液肥をはこぶいちにちいつぱい
光炎菩薩太陽マヂツクの歌が鳴つた
(コロナは八十三萬四百……)
ああ陽光のマヂツクよ
ひとつのせきをこえるとき
ひとりがかつぎ棒をわたせば
それは太陽のマヂツクにより
磁石のやうにもひとりの手に吸ひついた
(コロナは七十七萬五千……)
どのこどもかが笛を吹いてゐる