『心象スケッチ 春と修羅』
□小岩井農場
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さびしい反照はんせうの偏光を截れ
いま日を横ぎる黒雲は
侏羅じゆらや白堊のまつくらな森林のなか
爬蟲はちゆうがけはしく歯を鳴らして飛ぶ
その氾濫の水けむりからのぼつたのだ
たれも見てゐないその地質時代の林の底を
水は濁つてどんどんながれた
いまこそおれはさびしくない
たつたひとりで生きて行く
こんなきままなたましひと
たれがいつしよに行けやうか
大びらにまつすぐに進んで
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それでいけないといふのなら
田舎ふうのダブルカラなど引き裂いてしまへ
それからさきがあんまり青黒くなつてきたら……
そんなさきまでかんがへないでいい
ちからいつぱい口笛を吹け
口笛をふけ 陽ひの錯綜さくさう
たよりもない光波のふるひ
すきとほるものが一列わたくしのあとからくる
ひかり かすれ またうたふやうに小さな胸を張り
またほのぼのとかヾやいてわらふ
みんなすあしのこどもらだ
ちらちら瓔珞やうらくもゆれてゐるし