『心象スケッチ 春と修羅』

□小岩井農場
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  (雲の讃歌と日の軋
きしり)
それから眼をまたあげるなら
灰いろなもの走るもの蛇に似たもの 雉子だ
亞鉛鍍金
あえんめつきの雉子なのだ
あんまり長い尾をひいてうららかに過ぎれば
もう一疋が飛びおりる
山鳥ではない
 (山鳥ですか? 山で? 夏に?)
あるくのははやい 流れてゐる
オレンヂいろの日光のなかを
雉子はするするながれてゐる
啼いてゐる


────────


それが雉子の聲だ
いま見はらかす耕地のはづれ
向ふの青草の高みに四五本乱れて
なんといふ氣まぐれなさくらだらう
みんなさくらの幽霊だ
内面はしだれやなぎで
ときいろの花をつけてゐる
  (空でひとむらの海綿白金
プラチナムスポンヂがちぎれる)
それらかヾやく氷片の懸吊
けんちようをふみ
青らむ天のうつろのなかへ
かたなのやうにつきすすみ
すべて水いろの哀愁を焚



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