『心象スケッチ 春と修羅』

□小岩井農場
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 (白樺だらう 楊ではない)
耕耘部へはここから行くのがちかい
ふゆのあひだだつて雪がかたまり
馬橇
ばそりも通つていつたほどだ
 (ゆきがかたくはなかつたやうだ
  なぜならそりはゆきをあげた
  たしかに酵母のちんでんを
  冴えた氣流に吹きあげた)
あのときはきらきらする雪の移動のなかを
ひとはあぶなつかしいセレナーデを口笛に吹き
往つたりきたりなんべんしたかわからない
   (四列の茶いろな落葉松
らくやうしやう


────────


けれどもあの調子はづれのセレナーデが
風やときどきぱつとたつ雪と
どんなによくつりあつてゐたことか
それは雪の日のアイスクリームとおなし
 (もつともそれなら暖炉もまつ赤
だらうし
  muscobite も少しそつぽに灼
けるだらうし
  おれたちには見られないぜい澤
たくだ)
春のヴアンダイクブラウン
きれいにはたけは耕耘された
雲はけふも白金
はくきんと白金黒はくきんこく
そのまばゆい明暗のなかで
ひぼりはしきりに啼いてゐる


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