『心象スケッチ 春と修羅』

□小岩井農場
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腰をおろしてやすんでゐる
三人赤くわらつてこつちをみ
また一人は大股にどてのなかをあるき
なにか忘れものでももつてくるといふ風
ふう…(蜂凾の白ペンキ)
櫻の木には天狗巣病がたくさんある
天狗巣ははやくも青い葉をだし
馬車のラツパがきこえてくれば
ここが一ぺんにスヰツツルになる
遠くでは鷹がそらを截つてゐるし
からまつの芽はネクタイピンにほしいくらゐだし
いま向ふの並樹をくらつと青く走つて行つたのは
(騎手はわらひ)赤銅
しやくどうの人馬の徽章だ


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パート四

本部の氣取
きどつた建物が
櫻やポプラのこつちに立ち
そのさびしい観測臺のうへに
ロビンソン風力計の小さな椀や
ぐらぐらゆれる風信器を
わたくしはもう見出さない
 さつきの光澤
つやしの立派の馬車は
 いまごろどこかで忘れたやうにとまつてやうし。
 五月の黒いオーヴアコートも


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