『心象スケッチ 春と修羅』
□東岩手火山
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月の半分は赤銅しやくどう、地球照アースシヤイン
《お月さまには黒い處もある》
《後藤どう又兵衛いつつも拝んだづなす》
私のひとりごとの反響に
小田島治衛はるゑが云つてゐる
《山中鹿之助だらう》
もうかまはない、歩いていゝ
どつちにしてもそれは善いいことだ
二十五日の月のあかりに照らされて
薬師火口の外輪山をあるくとき
わたくしは地球の華族である
蛋白石の雲は遥にたゝヘ
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オリオン、金牛、もろもろの星座
澄み切り澄みわたつて
瞬きさへもすくなく
わたくしの額の上にかがやき
さうだ、オリオンの右肩から
ほんたうに鋼青の壮麗が
ふるえて私にやつて來る
三つの提灯は夢の火口原の
白いとこまで降りてゐる
《雪ですか、雪ぢやないでせう》
困つたやうに返事してゐるのは