『心象スケッチ 春と修羅』
□東岩手火山
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(もうみんな鍬や縄をもち
崖をおりてきていヽころだ)
いまは鳥のないしづかなそらに
またからすが横からはいる
屋根は矩形で傾斜白くひかり
こどもがふたりかけて行く
羽織をかざしてかける日本の子供ら
こんどは茶いろの雀どもの抛物線
金屬製の桑のこつちを
もひとりこどもがゆつくり行く
蘆の穂は赤い赤い
(ロシヤだよ、チエホフだよ)
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はこやなぎ しつかりゆれろゆれろ
(ロシヤだよ ロシヤだよ)
烏がもいちど飛びあがる
稀硫酸の中の亞鉛屑は烏のむれ
お城の上のそらはこんどは支那のそら
烏三疋杉をすべり
四疋になつて旋轉する
栗鼠と色鉛筆