『心象スケッチ 春と修羅』
□東岩手火山
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帽子があんまり大きくて
おまけに下を向いてあるいてきたので
吠え出したのだ
マサニエロ
城のすすきの波の上には
伊太利亞製の空間がある
そこで烏の群が踊る
白雲母しろうんものくもの幾きれ
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(濠と橄欖かんらん天蚕絨びらうど、杉)
ぐみの木かそんなにひかつてゆするもの
七つの銀のすすきの穂
(お城の下の桐畑でも、ゆれてゐるゆれてゐる、桐が)
赤い蓼たでの花もうごく
すヾめ すヾめ
ゆつくり杉に飛んで稲にはいる
そこはどての陰で氣流もないので
そんなにゆつくり飛べるのだ
(なんだか風と悲しさのために胸がつまる)
ひとの名前をなんべんも
風のなかで操り返してさしつかえないか