『心象スケッチ 春と修羅』

□東岩手火山
12ページ/15ページ


 



なぜ吠えるのだ、二疋とも
吠えてこつちへかけてくる
 (夜明けのひのきは心象のそら)
頭を下げることは犬の常套だ
尾をふることはこわくない
それだのに
なぜさう本氣に吠えるのだ
その薄明
はくめいの二疋の犬
一ぴきは灰色錫


────────


一ぴきの尾は茶の草穂
うしろへまはつてうなつてゐる
わたくしの歩きかたは不正でない
それは犬の中の狼のキメラがこわいのと
もひとつはさしつかえないため
犬は薄明に溶解する
うなりの尖端にはエレキもある
いつもあるくのになぜ吠えるのだ
ちやんと顔を見せてやれ
ちやんと顔を見せてやれと
誰かとならんであるきながら
犬が吠えたときに云ひたい


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ