『心象スケッチ 春と修羅』
□東岩手火山
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犬
なぜ吠えるのだ、二疋とも
吠えてこつちへかけてくる
(夜明けのひのきは心象のそら)
頭を下げることは犬の常套だ
尾をふることはこわくない
それだのに
なぜさう本氣に吠えるのだ
その薄明はくめいの二疋の犬
一ぴきは灰色錫
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一ぴきの尾は茶の草穂
うしろへまはつてうなつてゐる
わたくしの歩きかたは不正でない
それは犬の中の狼のキメラがこわいのと
もひとつはさしつかえないため
犬は薄明に溶解する
うなりの尖端にはエレキもある
いつもあるくのになぜ吠えるのだ
ちやんと顔を見せてやれ
ちやんと顔を見せてやれと
誰かとならんであるきながら
犬が吠えたときに云ひたい