『心象スケッチ 春と修羅』
□東岩手火山
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(つかてゐるな、
わたしはやつぱり睡いのだ)
火山彈には黒い影
その妙好みやうこうの火口丘には
幾條かの軌道のあと
鳥の聲!
鳥の聲!
海抜六千八百尺の
月明をかける鳥の聲、
鳥はいよいよしつかりとなき
私はゆつくりと踏み
月はいま二つに見える
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やつぱり疲れからの乱視なのだ
かすかに光る火山塊の一つの面
オリオンは幻怪げんくわい
月のまはりは熟した瑪璃と葡萄
あくびと月光の動轉
(あんまりはねあるぐなぢやい
汝うなひとりだらいがべあ
子供等わらしやども連れでて目にあへば
汝うなひとりであすまないんだぢやい)
火口丘くわこうきうの上には天の川の小さな爆發
みんなのデカンシヨの聲も聞える