『心象スケッチ 春と修羅』

□無聲慟哭
7ページ/14ページ


毒草や螢光菌のくらい野原をただよふとき
おまへはひとりどこへ行かうとするのだ
  (おら、おかないふうしてらべ)
何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら
またわたくしのどんなちいさな表情も
けつして見遁さないやうにしながら
おまへはけなげに母に訊
くのだ
  (うんにや ずゐぶん立派だぢやい
   けふはほんとに立派だぢやい)
ほんたうにさうだ
髪だつていつさうくろいし
まるでこどもの苹果の頬だ


────────


どうかきれいな頬をして
あたらしく天にうまれてくれ
  《それでもからだくさえがべ?》
  《うんにや いつかう》
ほんたうにそんなことはない
かへつてここはなつののはらの
ちいさな白い花の匂でいつぱいだから
ただわたくしはそれをいま言へないのだ
   (わたくしは修羅をあるいてゐるのだから)
わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは
わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ
ああそんなに


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ