『心象スケッチ 春と修羅』
□無聲慟哭
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毒草や螢光菌のくらい野原をただよふとき
おまへはひとりどこへ行かうとするのだ
(おら、おかないふうしてらべ)
何といふあきらめたやうな悲痛なわらひやうをしながら
またわたくしのどんなちいさな表情も
けつして見遁さないやうにしながら
おまへはけなげに母に訊きくのだ
(うんにや ずゐぶん立派だぢやい
けふはほんとに立派だぢやい)
ほんたうにさうだ
髪だつていつさうくろいし
まるでこどもの苹果の頬だ
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どうかきれいな頬をして
あたらしく天にうまれてくれ
《それでもからだくさえがべ?》
《うんにや いつかう》
ほんたうにそんなことはない
かへつてここはなつののはらの
ちいさな白い花の匂でいつぱいだから
ただわたくしはそれをいま言へないのだ
(わたくしは修羅をあるいてゐるのだから)
わたくしのかなしさうな眼をしてゐるのは
わたくしのふたつのこころをみつめてゐるためだ
ああそんなに