『心象スケッチ 春と修羅』

□無聲慟哭
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       わたくしを嘲笑したことか)
   そのかなしみによるのだが
   またほんたうにあの聲もかなしいのだ
   いま鳥は二羽、かゞやいて白くひるがへり
   むかふの湿地、青い芦のなかに降りる
   降りやうとしてまたのぼる
     (日本武尊の新らしい御陵の前に
      おきさきたちがうちふして嘆き
      そこからたまたま千鳥が飛べば
      それを尊のみたまとおもひ
      芦に足をも傷つけながら
   海べをしたつて行かれたのだ)


────────


清原がわらつて立つてゐる
 (日に灼けて光つてゐるほんたうの農村のこども
  その菩薩ふうのあたまの容
かたちはガンダーラから來た)
水が光る きれいな銀の水だ
《さああすこに水があるよ
 口をすゝいでさつぱりして往かう
 こんなきれいな野はらだから》







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