『心象スケッチ 春と修羅』
□無聲慟哭
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しめつた朝の日光を飛んでゐる
それはわたくしのいもうとだ
死んだわたくしのいもうとだ
兄が來たのであんなにかなしく啼いてゐる
(それは一應はまちがひだけれども
まつたくまちがひとは言はれない)
あんなにかなしく啼きながら
朝のひかりをとんでゐる
(あさの日光ではなくて
熟してつかれたひるすぎらしい)
けれどもそれも夜どほしあるいてきたための
vaguc バーグ な銀の錯覺なので
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ちやんと今朝あのひしげて融けた金キンの液体が
青い夢の北上山地からのぼつたのをわたくしは見た)
どうしてそれらの鳥は二羽
そんなにかなしくきこえるか
それはじぶんにすくふちからをうしなつたとき
わたくしのいもうとをもうしなつた
そのかなしみによるのだが
(ゆふべは柏ばやしの月あかりのなか
けさはすずらんの花のむらがりのなかで
なんべんわたくしはその名を呼び
またたれともわからない聲が
人のない野原のはてからこたへてきて