『心象スケッチ 春と修羅』
□オホーツク挽歌
5ページ/26ページ
どこへ行くともわからないその方向を
どの種類の世界へはいるともしれないそのみちを
たつたひとりでさびしくあるいて行つたらうか
(草や沼やです
一本の木もです)
《ギルちやんまつさをになつてすわつてゐたよ》
《こお んなにして眼は大きくあいてたけど
ぼくたちのことはまるでみえないやうだつたよ》
《ナーガラがね 眼をぢつとこんなに赤くして
だんだん環をちいさくしたよ こんなに》
《し、環をお切り そら 手を出して》
《ギルちやん青くてすきとほるやうだつたよ》
────────
《鳥がね、たくさんたねまきのときのやうに
ばあつと空を通つたの
でもギルちやんだまつてゐたよ》
《お日さまあんまり變に飴いろだつたわねえ》
《ギルちやんちつともぼくたちのことみないんだもの
ぼくほんたうにつらかつた》
《さつきおもだかのとこであんまりはしやいでたねえ》
《どうしてギルちやんぼくたちのことみなかつたちう
忘れたらうかあんなにいつしよにあそんだのに》
かんがへださなければならないことは
どうしてもかんがへださなければならない
とし子はみんなが死ぬとなづける