『心象スケッチ 春と修羅』
□オホーツク挽歌
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そこらは青い孔雀のはねでいつぱい
眞鍮の睡さうな脂肪酸にみち
車室の五つの電燈は
いよいよつめたく液化され
(考へださなければならないことを
わたくしはいたみやつかれから
なるべくおもひださうとしない)
今日のひるすぎなら
けはしく光る雲のしたで
まつたくおれたちはあの重い赤いポムプを
ばかのやうに引つぱつたりついたりした
おれはその黄いろな服を着た隊長だ
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だから睡いのはしかたない
(おヽオーおまへヅウ せわしいアイリーガーみちづれよゲゼルレ
どうかここからアイレドツホニヒト急いでフオン去らないでくれデヤ ステルレ
《尋常一年生 ドイツの尋常一年生》
いきなりそんな惡い叫びを
投げつけるのはいつたいたれだ
けれども尋常一年生だ
夜中を過ぎたいまごろに
こんなにぱつちり眼をあくのは
ドイツの尋常一年生だ)
あいつはこんなさびしい停車塲を
たつたひとりで通つていつたらうか