『心象スケッチ 春と修羅』

□オホーツク挽歌
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山脈の縮れた白い雲の上にかかり
列車の窓の稜のひととこが
プリズムになつて日光を反射し
草地に投げられたスペクトル
 (雲はさつきからゆつくり流れてゐる)
日さへまもなくかくされる
かくされる前には感應により
かくされた后には威神力により
まばゆい白金環
はくきんくわんができるのだ
  (ナモサダルマプフンダリカサスートラ)
たしかに日はいま羊毛の雲にはいらうとして
サガレンの八月のすきとほつた空氣を


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やうやく葡萄の果汁
マストのやうに
またフレツプスのやうに甘くはつかうさせるのだ
そのためにえぞにふの花が一さう明るく見え
松毛虫に食はれて枯れたその大きな山に
桃いろな日光もそそぎ
すべて天上技師 Nature 氏の
ごく斬新な設計だ
山の襞(ひだ)のひとつのかげは
緑青のゴーシユ四辺形
そのいみじい玲瓏
トランスリユーセントのなかに
からすが飛ぶと見えるのは
一本のごくせいの高いとどまつの


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